大弐は源氏へ挨拶《あいさつ》をした。
「はるかな田舎《いなか》から上ってまいりました私は、
京へ着けばまず伺候いたしまして、
あなた様から都のお話を伺わせていただきますことを
空想したものでございました。
意外な政変のために御隠栖になっております土地を
今日通ってまいります。
非常にもったいないことと存じ、
悲しいことと思うのでございます。
親戚と知人とが
もう京からこの辺へ迎えにまいっておりまして、
それらの者がうるそうございますから、
お目にかかりに出ないのでございますが、
またそのうち別に伺わせていただきます」
というのであって、
子の筑前守《ちくぜんのかみ》が使いに行ったのである。
源氏が蔵人《くろうど》に推薦して引き立てた男であったから、
心中に悲しみながらも人目をはばかってすぐに帰ろうとしていた。
「京を出てからは昔懇意にした人たちとも
なかなか逢えないことになっていたのに、
わざわざ訪ねて来てくれたことを満足に思う」
と源氏は言った。
大弐への返答もまたそんなものであった。
筑前守は泣く泣く帰って、
源氏の住居《すまい》の様子などを報告すると、
大弐をはじめとして、
京から来ていた迎えの人たちもいっしょに泣いた。
少納言のホームページ 源氏物語&古典 syounagon-web ぜひご覧ください🪷
https://syounagon-web-1.jimdosite.com
【源氏物語 第十二帖 須磨(すま)】
朧月夜との仲が発覚し、追いつめられた光源氏は
後見する東宮に累が及ばないよう、
自ら須磨への退去を決意する。
左大臣家を始めとする親しい人々や藤壺に暇乞いをし、
東宮や女君たちには別れの文を送り、
一人残してゆく紫の上には領地や財産をすべて託した。
須磨へ発つ直前、桐壺帝の御陵に参拝したところ、
生前の父帝の幻がはっきり目の前に現れ、
源氏は悲しみを新たにする。
須磨の侘び住まいで、
源氏は都の人々と便りを交わしたり
絵を描いたりしつつ、淋しい日々を送る。
つれづれの物語に明石の君の噂を聞き、
また都から頭中将がはるばる訪ねてきて、
一時の再会を喜び合った。
やがて三月上巳の日、
海辺で祓えを執り行った矢先に
恐ろしい嵐が須磨一帯を襲い、
源氏一行は皆恐怖におののいた。
💠🎼夏空、静寂、蝉しぐれ written by 蒲鉾さちこ 💠
🪷聴く古典文学 少納言チャンネルは、聴く古典文学動画です。チャンネル登録お願いします🪷
[rakuten:f092088-oyama:10000152:detail]