年を数えてみて、
「親子であってこんなに長く逢えなかったというようなことは
例もないでしょう。恨めしい運命でしたね。
もうあなたは少女のように
恥ずかしがってばかりいてよい年でもないのですから、
今日までの話も私はしたいのに、
なぜあなたは黙ってばかりいますか」
と源氏が恨みを言うのを聞くと、
何と言ってよいかわからぬほど姫君は恥ずかしいのであったが、
「足立たずで
(かぞいろはいかに哀れと思ふらん三とせになりぬ足立たずして)
遠い国へ流れ着きましたころから、
私は生きておりましたことか、
死んでおりましたことかわからないのでございます」
とほのかに言うのが夕顔の声そのままの語音《ごいん》であった。
源氏は微笑を見せながら、
「あなたに人生の苦しい道をばかり通らせて来た酬《むく》いは
私がしないでだれにしてもらえますか」
と言って、
源氏は聡明《そうめい》らしい姫君の物の言いぶりに満足しながら、
右近にいろいろな注意を与えて源氏は帰った。
感じのよい女性であったことをうれしく思って、
源氏は夫人にもそのことを言った。
🌷🎼#transparent grave written by #のる
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