「困るね。生きている人のことでは私のほうから
進んで聞いておいてもらわねばならないこともありますがね。
たとえこんな時にでも昔のそうした思い出を話すのは
あなたが特別な人だからですよ」
こう言っている源氏には故人を思う情に堪えられない様子が見えた。
「自分の経験ばかりではありませんがね、
他人のことででもよく見ましたがね、
女というものはそれほど愛し合っている仲でなくても
ずいぶん嫉妬《しっと》をするもので、
それに煩わされている人が多いから、自分は恐ろしくて、
好色な生活はすまいと念がけながらも、
そのうち自然に放縦《ほうしょう》にもなって、
幾人《いくたり》もの恋人を持ちましたが、
その中で可憐《かれん》で可憐でならなく思われた女として
その人が思い出される。
生きていたなら私は北の町にいる人と同じくらいには
必ず愛しているでしょう。
だれも同じ型の人はないものですが、その人は才女らしい、
りっぱなというような点は欠けていたが、上品でかわいかった」
などと源氏が言うと、
「でも、明石《あかし》の波にくらべるほどにはどうだか」
と夫人は言った。
今も北の御殿の人を、
不当にすばらしく愛されている女であると夫人はねたんでいた。
小さい姫君がかわいいふうをして前に聞いているのを見ると、
夫人の言うほうがもっともであるかもしれないと源氏は思った。
それらのことは皆九月のうちのことであった。
🪻🎼#枯れ葉 written by #ハヤシユウ
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