末摘花女王《すえつむはなにょおう》の手紙は
香の薫《かお》りのする檀紙《だんし》の、
少し年数物になって厚く膨《ふく》れたのへ、
「どういたしましょう、
いただき物はかえって私の心を暗くいたします。」
『着て見ればうらみられけりから衣《ごろも》かへしやりてん袖を濡らして』
と書かれてあった。字は非常に昔風である。
源氏はそれをながめながら
おかしくてならぬような笑い顔をしているのを、
何があったのかというふうに夫人は見ていた。
源氏は使いへ末摘花の出した纏頭《てんとう》のまずいのを見て、
機嫌《きげん》の悪くなったのを知り、
使いはそっと立って行った。
そしてその侍は自身たちの仲間とこれを笑い話にした。
よけいな出すぎたことをする点で困らせられる人であると
源氏は思っていた。
「りっぱな歌人なのだね、この女王は。
昔風の歌|詠《よ》みはから衣、
袂《たもと》濡るるという恨みの表現法から離れられないものだ。
私などもその仲間だよ。
凝り固まっていて、
新しい言葉にも表現法にも影響されないところがえらいものだ。
御前などの歌会の時に古い人らが友情を言う言葉に必ずまどい
という三字が使われるのもいやなことだ。
昔の恋愛をする者の詠む歌には
相手を悪く見て仇人《あだびと》という言葉を
三句めに置くことにして、
それをさえ中心にすれば前後は何とでもつくと思ったものらしい」
などと源氏は夫人に語った。
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