官人が喪服を脱いだのに続いて四月の更衣期になったから、
はなやかな空気の満ち渡った初夏であったが、
前斎院はなお寂しくつれづれな日を送っておいでになった。
庭の桂《かつら》の木の若葉がたてるにおいにも若い女房たちは、
宮の御在職中の加茂の院の祭りのころのことを恋しがった。
源氏から、神の御禊《みそぎ》の日も
ただ今はお静かでしょうという挨拶を持った使いが来た。
今日こんなことを思いました。
かけきやは 川瀬の波も たちかへり
君が御禊《みそぎ》の 藤《ふぢ》のやつれを
紫の紙に書いた正しい立文《たてぶみ》の形の手紙が
藤の花の枝につけられてあった。
斎院はものの少し身にしむような日でおありになって、
返事をお書きになった。
藤衣 きしは昨日《きのふ》と 思ふまに
今日《けふ》はみそぎの 瀬にかはる世を
はかないものと思われます。
とだけ書かれてある手紙を、例のように源氏は熱心にながめていた。
斎院が父宮の喪の済んでお服直しをされる時も、
源氏からたいした贈り物が来た。
女王《にょおう》はそれをお受けになることは
醜いことであるというように言っておいでになったが、
求婚者としての言葉が添えられていることであれば辞退もできるが、
これまで長い間何かの場合に公然の進物を送り続けた源氏であって、
親切からすることであるから返却のしようがないように言って
女房たちは困っていた。
女五《にょご》の宮《みや》のほうへもこんなふうにして
終物質的に御補助をする源氏であったから、
宮は深く源氏を愛しておいでになった。
🌸🎼#はなむけ written by#Heitaro Ashibe
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