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源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

源氏物語&古典をはじめ、日常の生活に雅とユーモアと笑顔を贈ります🎁

【平家物語10 第1巻 妓王④完〈ぎおう〉】〜The Tale of the Heike🪷

仏《ほとけ》も昔は凡夫なり

 我等も遂には仏なり。

何《いず》れも仏性《ぶっしょう》具《ぐ》せる身を

 隔《へだ》つるのみこそ悲しけれ。

俗謡《ぞくよう》に事よせて、切々と歌い続ける妓王の姿は、

並みいる人の涙をそそるものがあった。

清盛も少しは気の毒に思ったらしく、

ねぎらいの言葉を与えて家へ帰した。

 

我が家に帰りつくと妓王は又さめざめと涙を流しながら、

こんな生き恥をさらしているより死んだ方がよっぽど良いと

母の膝によりすがって、かき口説《くど》く。

妹の妓女も、姉が死ぬならと、暗に、自殺をほのめかす。

年老いた母一人が、おろおろしながら、二人の短慮を戒めて、

もう一度考え直させようとする。

それにつけても、清盛の仕打ちの口惜しさが、

又想い返されてきて、母子《おやこ》は又涙に埋れるのであった。

 

「お母さんの仰有《おっしゃ》るのも尤《もっと》もです。

 それなら都にいさえしなければ、

 こんないやな目にもあわずに済むんですもの」

と妓王は、二十一という花の盛にいさぎよく別れを告げると、

髪を切って嵯峨野の奥に小さな庵《いおり》をつくって

引籠《ひっこも》ってしまった。

 

姉の出家に刺激され、妓女も十九で髪を下し、

念仏三昧《ねんぶつざんまい》に日を送るようになった。

二人の娘に尼になられた母もやがて後を追い、

ひっそりした尼僧庵の生活に入ったのである。

 

やがて春も過ぎ、夏も去り、初秋の風が吹き始める頃、

漸く静かな暮しにもなれた三人のところに、

意外にも人の訪れる様子がした。

竹の編戸をひそやかにたたく音がした。

こんな山深く、人の訪れる事もない僧庵暮しである。

さては魔性の者でも、きたのかと、

恐るおそる戸をあけてみると、何と、

仏御前が、旅装束のまま戸口にうなだれて立っていた。

 

「まあ仏さまではございませんか。

 一体、今頃、どうなすったのです」

妓王の驚く声に、仏も、おろおろと涙を流した。

「始めっからの事を申し上げるのも気がひけますけど、

とにかく聞いて下さい。

西八条のお邸には、私の方からのこのこ出かけて行って、

貴女のご尽力で、清盛さまにもお目にかかることができたのに、

清盛さまから意外にも召しかかえられ、

かえって貴女を不幸な目にあわせてしまいました。

本当に私は申しわけなくてつい先達ても、

お邸へ来て下さった時だって胸が一杯だったんです。

今でこそ、豊かな生活をさせて貰って、

結構ずくめで暮していたって、

ああいう気まぐれな人のことですもの、

いつ何どき、貴女と同じ身の上になるかわかりゃしません、

貴女の書き遺《のこ》して下すった歌を見ては、

そのことばかり、考えていましたわ。

一時、皆さんの行方が判らずどうなさったのかと思っていましたけど、

近頃、ここにこうやって暮していらっしゃる話をきき、

とうとう決心して、やってきたわけなんです」

 

仏の真実味あふれる告白をきいて今迄の憎しみも忘れ、

三人はじっと聞き入った。

「いくらお暇をお願いしても、清盛様は、駄目だとおっしゃるし、

 でも考えれば考えるほど、

 現世の楽しみなんて限りのあるものですものね。

 一時の楽しさに酔っても、あとあと、地獄に行くなんて、

 考えるだけでも恐しいことですもの。

 そう思うと矢も楯《たて》もたまらず、

 今朝思い立って、こんな格好できたんです」

とかぶっていた被衣《かつぎ》を脱いでみると、

闇にもほの白い坊主頭である。

「こうまで決心してきたんですもの。

 今迄のことは、どうぞ水に流して下さいませ。

 もし許して下さらないっておっしゃるんなら、仕方がありません。

 あてどなくどこかを漂《さすら》い歩いて、

 一生念仏して暮すだけのことですもの」

それまで黙って聞いていた妓王は、思わず息を呑《の》んだ。

 

「貴女の気持も知らないで、実は私、

 すこし、貴女のことをうらんでいたんですのよ。

 仏の道に帰依《きえ》したくせに、人をうらむなんてと思いながら、

 やっぱり若くてお美しい貴女の面影が心を悩ましていたんです。

 でもね、そうまでして訪ねていらした貴女を、

 仏さん、どうしてうらむ気持がおこりましょうか。

 貴女が尼になられた心境に比べれば、

 私達の出家の動機なんて、お恥ずかしいくらいですわ、

 十七歳というお年でよくそのご決心のつきましたこと。

 貴女のような方こそ、

 私達のちっぽけな気持を導いて下さる方ですわ、

 こちらからこそ、お願いしたいくらいです」

今は、恩讐《おんしゅう》を越えた、晴れやかな表情で、

妓王は仏の手をとって中へ導き入れた。

 

以来、四人の尼たちは、朝晩|香華《こうげ》をたむけ、

念仏三昧《ねんぶつざんまい》に日を送りながら、

安らかな往生を遂げたと言われている。

🪷🎼#Mulberry written by#ハシマミ

 

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