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源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

源氏物語&古典をはじめ、日常の生活に雅とユーモアと笑顔を贈ります🎁

【平家物語9 第1巻 妓王③(ぎおう)】〜The Tale of the Heike💐


別れるとき、妓王は、居間の障子に一首の歌をかきつけた。

もえ出るもかるるも同じ野辺の草

  いずれか秋にあわではつべき

今は得意絶頂の仏さま、

貴女《あなた》だっていつ何時、

私みたいなことにはなりかねないかも知れませんよ。

それは、妓王の精一杯の無言の抗議だったのである。

 

妓王が西八条からはなれたことはたちまち、京都中に知れ渡った。

毎月欠かさず母の許に送られてきた、手当金もぱったり途絶えた。

そして今は仏御前の親類縁者たちが、

莫大《ばくだい》な仕送りで生活しているという噂がひろがっていた。

清盛の寵姫であったあいだは、

高嶺《たかね》の花よと諦めていた妓王が、

一度び市井《しせい》の人間になると、

あっちこっちから、口がかかってきた。

しかし妓王は、もう二度と、人の想い者にはなりたくはなかった。

清盛の屋敷でうけた手痛いショックは、

かつての陽気で、明るい妓王の性格をすっかり変えてしまったのである。

妓王は毎日外に出ず、内にひっそりとして暮していた。

 

その年も暮れて、春になったある日、

清盛のところから使いがやって来た。

「近頃|如何《どう》している? 

 仏がどうも退屈してるらしいから、慰めに来てくれ」

という虫のいい文句である。

今更返事をするのもしゃくだから、ほったらかしておくと、

「何故《なぜ》返事をしないのだ、

 来るか来ないかはっきりしたらどうなんだ、

 そっちがその気ならこっちにも考えがあるぞ」

と今度は重ねて脅迫めいた伝言の仕方である。

どんな残酷なこともしかねない清盛の気性を知っている母親は

気が気ではなかった。

「何とか返事したらどうなんだい? 

 あの様子じゃ、お前、どんなことをされるかわからないよ」

母はそれとなく、西八条へ行く事を勧める様子である。

「でもね、お母さん、考えてもご覧なさい、

 行くならば行くって言いますよ。行かないのに、

 行きませんなんてはっきり言えるものですか。

 どっちにしたって、田舎に追放か、それとも殺されるか、

 私は、もう如何《どう》なったって構わないんです、

 おめおめ、

 あの人の前に出ることとくらべたらその方がまだずっとましですわ」

 

「お前の気持は、よくわかるけどね、

 今の世の中で、あの方に反抗して、一体、どんな利益があると思う? 

 第一、男女の問題なんてものは、

 千年も万年もって具合にいくもんじゃない。

 お前なんか三年間可愛がって頂いただけでも大したものと思わなくちゃ。

 それに若いお前は、田舎のあばら屋でも我慢もできるだろうが、

 私はどうしても都を離れたくないのだよ」

涙ながらにかきくどく母の言葉には、抗《さから》うすべもなく、

妓王はいやいや、

妹と他の二人の白拍子と連れ立って西八条に出かけていった。

 

その日妓王の通された席は、以前とは段違いの末席である。

悪いこと一つしたわけでもないのに、

暇を出されて、おまけに席まで落されるなんて余りだわ。

今にも涙ぐみそうになるのをぐっとこらえている妓王の様子に、

仏御前の方が胸が一杯になってきた。

「あんな末席にお通ししなくたって、

 元はここがあの方の場所だったところなんですよ、

 あの方を、ここへお呼びなすったら?」

といったが、清盛は知らん顔である。

仏御前はいたたまれず席を外してしまった。

すると清盛は妓王に、

「今まで、どうしていたんだ、何しろ仏が退屈しおって淋しがるからなあ、

 まア歌ったり踊ったりして慰めてやってくれよ」

清盛の言葉に、妓王は口惜しさが胸にこみあげてきたが、

じっとこらえて歌い出した。

💐🎼#届かない声 written by#K’z Art Storage

 

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