源氏はまず宮のお居間のほうで例のように話していたが、
昔話の取りとめもないようなのが長く続いて
源氏は眠くなるばかりであった。
宮もあくびをあそばして、
「私は宵惑《よいまど》いなものですから、
お話がもうできないのですよ」
とお言いになったかと思うと、
鼾《いびき》という源氏に馴染《なじみ》の少ない音が聞こえだしてきた。
源氏は内心に喜びながら宮のお居間を辞して出ようとすると、
また一人の老人らしい咳をしながら御簾《みす》ぎわに寄って来る人があった。
「もったいないことですが、
ご存じのはずと思っておりますものの私の存在を
とっくにお忘れになっていらっしゃるようでございますから、
私のほうから、出てまいりました。
院の陛下がお祖母《ばあ》さんとお言いになりました者でございますよ」
と言うので源氏は思い出した。
源典侍《げんてんじ》といわれていた人は尼になって
女五の宮のお弟子《でし》分でお仕えしていると以前聞いたこともあるが、
今まで生きていたとは思いがけないことであるとあきれてしまった。
🪷🎼#優しい憂雨に written by# 蒲鉾さちこ
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