いらっしゃいませ」
と誘うのであるが、
女王の心は
なお忘れられた形になっている源氏を頼みにしていた。
どんなに時がたっても
自分の思い出される機会のないわけはない、
あれほど堅い誓いを自分にしてくれた人の心は
変わっていないはずであるが、
自分の運の悪いために捨てられたとも
人からは見られるようなことになっているのであろう、
風の便《たよ》りででも自分の哀れな生活が
源氏の耳にはいればきっと救ってくれるに違いないと、
これはずっと以前から女王の信じているところであって、
邸《やしき》も家も昔に倍した荒廃のしかたではあるが、
部屋の中の道具類をそこばくの金に変えていくようなことは、
源氏の来た時に不都合であるからと忍耐を続けているのである。
気をめいらせて泣いている時のほうが多い末摘花の顔は、
一つの木の実だけを
大事に顔に当てて持っている仙人とも言ってよい奇怪な物に見えて、
異性の興味を惹《ひ》く価値などはない。
気の毒であるからくわしい描写はしないことにする。
🍂🎼忘れられた場所 written by ハシマミ🍂
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