水鶏《くいな》が近くで鳴くのを聞いて、
水鶏だに 驚かさずば いかにして
荒れたる宿に 月を入れまし
なつかしい調子で言うともなくこう言う女が
感じよく源氏に思われた。
どの人にも自身を惹《ひ》く力のあるのを知って
源氏は苦しかった。
「おしなべて たたく水鶏に 驚かば
うはの空なる 月もこそ入れ
私は安心していられない」
とは言っていたが、
それは言葉の戯れであって、
源氏は貞淑な花散里を信じ切っている。
何に動揺することもなく長く留守《るす》の間を
静かに待っていてくれた人を、
源氏はおろそかには思っていなかった。
当分悲しくならないがために空はながめないで暮らすようにと、
行く前に源氏が言った夜のことなどを思い出して言うのであった。
🪻🎼雨だれを聞きながら by Matsunaga Yuko🪻
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