「これは形見だと思っていただきたい」
宰相も名高い品になっている笛を一つ置いて行った。
人目に立って問題になるようなことは
双方でしなかったのである。
上って来た日に帰りを急ぎ立てられる気がして、
宰相は顧みばかりしながら座を立って行くのを、
見送るために続いて立った源氏は悲しそうであった。
「いつまたお逢いすることができるでしょう。
このまま無限にあなたが捨て置かれるようなことはありません」
と宰相は言った。
「雲近く 飛びかふ鶴《たづ》も 空に見よ
われは春日の 曇りなき身ぞ
みずからやましいと思うことはないのですが、
一度こうなっては、
昔のりっぱな人でももう一度世に出た例は少ないのですから、
私は都というものをぜひまた見たいとも願っていませんよ」
こう源氏は答えて言うのであった。
「たづかなき 雲井に独《ひと》り音《ね》をぞ鳴く
翅《つばさ》並べし 友を恋ひつつ
失礼なまでお親しくさせていただいたころのことを
もったいないことだと後悔される事が多いのですよ」
と宰相は言いつつ去った。
友情がしばらく慰めたあとの源氏はまた寂しい人になった。
🌟🎼 流星群の夜 written by ハヤシユウ🌟
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