姫君が手を前へ伸ばして、
立っている源氏のほうへ行こうとするのを見て、
源氏は膝《ひざ》をかがめてしまった。
「もの思いから解放される日のない私なのだね、
しばらくでも別れているのは苦しい。
奥さんはどこにいるの、
なぜここへ来て別れを惜しんでくれないのだろう、
せめて人心地《ひとごこち》が
出てくるかもしれないのに」
と言うと、
乳母は笑いながら明石の所へ行ってそのとおりを言った。
女は逢った喜びが二日で尽きて、
別れの時の来た悲しみに心を乱していて、
呼ばれてもすぐに出ようとしないのを
源氏は心のうちで
あまりにも貴女《きじょ》ぶるのではないかと思っていた。
女房たちからも勧められて、
明石《あかし》はやっと膝行《いざ》って出て、
そして姿は見せないように几帳《きちょう》の蔭《かげ》へ
はいるようにしている様子に気品が見えて、
しかも柔らかい美しさのあるこの人は
内親王と言ってもよいほどに気高《けだか》く見えるのである。
源氏は几帳の垂《た》れ絹を横へ引いて
またこまやかにささやいた。
いよいよ出かける時に源氏が一度振り返って見ると、
冷静にしていた明石も、
この時は顔を出して見送っていた。
🪷降りしきる、白(Tha long spell of falling down,white)by 蒲鉾さちこ🪷
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