源氏は御所にいた時で、
帝《みかど》にこのことを申し上げた。
「得意なのだね」
帝はお笑いになって、
「使いまでもよこしたのだから行ってやるがいい。
孫の内親王たちのために
将来兄として力になってもらいたいと
願っている大臣の家《うち》だから」
など仰せられた。
ことに美しく装って、
ずっと日が暮れてから待たれて源氏は行った。
桜の色の支那錦《しなにしき》の直衣《のうし》、
赤紫の下襲《したがさね》の裾《すそ》を長く引いて、
ほかの人は皆 正装の袍《ほう》を着て出ている席へ、
艶《えん》な宮様姿をした源氏が、
多数の人に敬意を表されながらはいって行った。
桜の花の美がこの時にわかに減じてしまったように思われた。
音楽の遊びも済んでから、
夜が少しふけた時分である。
源氏は酒の酔いに悩むふうをしながらそっと席を立った。
中央の寝殿《しんでん》に女一《にょいち》の宮《みや》、
女三の宮が住んでおいでになるのであるが、
そこの東の妻戸の口へ源氏はよりかかっていた。
藤《ふじ》はこの縁側と東の対の間の庭に咲いているので、
格子は皆上げ渡されていた。
御簾《みす》ぎわには女房が並んでいた。
その人たちの外へ出している袖口の重なりようの大ぎょうさは
踏歌《とうか》の夜の見物席が思われた。
今日などのことにつりあったことではないと見て、
趣味の洗練された藤壺辺のことがなつかしく
源氏には思われた。
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【源氏物語 第八帖 花宴 はなのえん】
如月に紫宸殿で催された桜花の宴で、
光源氏は頭中将らと共に漢詩を作り舞を披露した。
宴の後、朧月夜に誘われふと入り込んだ弘徽殿で、
源氏は廊下から聞こえる歌に耳を澄ます。
照りもせず 曇りも果てぬ 春の夜の
朧月夜に似るものぞなき
源氏はその歌を詠んでいた若い姫君と出逢い契りを交わす。
素性も知らぬままに扇を取り交わして別れた姫君こそ、
春宮への入内が決まっている右大臣の
六の君(朧月夜)だった。
一月後、
右大臣家の藤花の宴に招かれた源氏は
装いを凝らして訪れた。
右大臣にかなり呑まされ、
酔いを醒ますためその場を離れた源氏。
偶然通りかかったところで、
御簾のうちにいる六の君を発見。
歌を詠みかけるが(催馬楽「石川」)、
事情を知らない六の君の姉妹たちは
「おかしな高麗人がいるものね」と訝しがる。
ついに見つけ出した、
源氏はさりげなく姫君の手を握った。
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