太宰帥《だざいのそつ》親王の夫人や
頭中将が愛しない四の君などは美人だと聞いたが、
かえってそれであったらおもしろい恋を
経験することになるのだろうが、
六の君は東宮の後宮へ入れるはずだとか聞いていた、
その人であったら気の毒なことになったというべきである。
幾人もある右大臣の娘のどの人であるかを
知ることは 困難なことであろう。
もう逢うまいとは思わぬ様子であった人が、
なぜ手紙を往復させる方法について
何ごとも教えなかったのであろうなどとしきりに考えられるのも
心が惹かれているといわねばならない。
思いがけぬことの行なわれたについても、
藤壺にはいつもああした隙《すき》がないと、
昨夜の弘徽殿《こきでん》のつけこみやすかったことと比較して
主人《あるじ》の女御に
いくぶんの軽蔑の念が 起こらないでもなかった。
この日は後宴《ごえん》であった。
終日そのことに携わっていて
源氏はからだの閑暇《ひま》がなかった。
十三|絃《げん》の箏《そう》の琴の役を
この日は勤めたのである。
昨日の宴よりも長閑《のどか》な気分に満ちていた。
中宮は夜明けの時刻に南殿へおいでになったのである。
弘徽殿の有明《ありあけ》の月に別れた人は
もう御所を出て行ったであろうかなどと、
源氏の心はそのほうへ飛んで行っていた。
気のきいた良清《よしきよ》や惟光《これみつ》に命じて
見張らせておいたが、
源氏が宿直所《とのいどころ》のほうへ帰ると、
「ただ今 北の御門のほうに早くから来ていました車が
皆人を乗せて出てまいるところでございますが、
女御さん方の実家の人たちがそれぞれ行きます中に、
四位少将、右中弁などが御前から下がって来てついて行きますのが
弘徽殿の実家の方々だと見受けました。
ただ女房たちだけの乗ったのでないことはよく知れていまして、
そんな車が三台ございました」
と報告をした
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【源氏物語 第八帖 花宴 はなのえん】
如月に紫宸殿で催された桜花の宴で、
光源氏は頭中将らと共に漢詩を作り舞を披露した。
宴の後、朧月夜に誘われふと入り込んだ弘徽殿で、
源氏は廊下から聞こえる歌に耳を澄ます。
照りもせず 曇りも果てぬ 春の夜の
朧月夜に似るものぞなき
源氏はその歌を詠んでいた若い姫君と出逢い契りを交わす。
素性も知らぬままに扇を取り交わして別れた姫君こそ、
春宮への入内が決まっている右大臣の
六の君(朧月夜)だった。
一月後、
右大臣家の藤花の宴に招かれた源氏は
装いを凝らして訪れた。
右大臣にかなり呑まされ、
酔いを醒ますためその場を離れた源氏。
偶然通りかかったところで、
御簾のうちにいる六の君を発見。
歌を詠みかけるが(催馬楽「石川」)、
事情を知らない六の君の姉妹たちは
「おかしな高麗人がいるものね」と訝しがる。
ついに見つけ出した、
源氏はさりげなく姫君の手を握った。
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