「ぜひ言ってください、だれであるかをね。
どんなふうにして手紙を上げたらいいのか、
これきりとはあなただって思わないでしょう」
などと源氏が言うと、
「うき身世に やがて消えなば 尋ねても
草の原をば 訪はじとや思ふ」
という様子にきわめて艶《えん》な所があった。
「そう、私の言ったことはあなたのだれであるかを
捜す努力を惜しんでいるように聞こえましたね」
と言って、また、
「何《いづ》れぞと 露のやどりを わかむ間に
小笹《こざさ》が原に 風もこそ吹け」
私との関係を迷惑にお思いにならないのだったら、
お隠しになる必要はないじゃありませんか。
わざとわからなくするのですか」
と言い切らぬうちに、
もう女房たちが起き出して女御を迎えに行く者、
あちらから下がって来る者などが廊下を通るので、
落ち着いていられずに扇だけをあとのしるしに取り替えて
源氏はその室を出てしまった。
源氏の桐壺《きりつぼ》には女房がおおぜいいたから、
主人が暁に帰った音に目をさました女もあるが、
忍び歩きに好意を持たないで、
「いつもいつも、まあよくも続くものですね」
という意味を仲間で肱《ひじ》や手を突き合うことで言って、
寝入ったふうを装うていた。
寝室にはいったが眠れない源氏であった。
美しい感じの人だった。
女御の妹たちであろうが、
処女であったから五の君か六の君に違いない。
【源氏物語 第八帖 花宴 はなのえん】
如月に紫宸殿で催された桜花の宴で、
光源氏は頭中将らと共に漢詩を作り舞を披露した。
宴の後、朧月夜に誘われふと入り込んだ弘徽殿で、
源氏は廊下から聞こえる歌に耳を澄ます。
照りもせず 曇りも果てぬ 春の夜の
朧月夜に似るものぞなき
源氏はその歌を詠んでいた若い姫君と出逢い契りを交わす。
素性も知らぬままに扇を取り交わして別れた姫君こそ、
春宮への入内が決まっている右大臣の
六の君(朧月夜)だった。
一月後、
右大臣家の藤花の宴に招かれた源氏は
装いを凝らして訪れた。
右大臣にかなり呑まされ、
酔いを醒ますためその場を離れた源氏。
偶然通りかかったところで、
御簾のうちにいる六の君を発見。
歌を詠みかけるが(催馬楽「石川」)、
事情を知らない六の君の姉妹たちは
「おかしな高麗人がいるものね」と訝しがる。
ついに見つけ出した、
源氏はさりげなく姫君の手を握った。
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