琴を教えたりなどしていて、
日が暮れると源氏が出かけるのを、
紫の女王は少女心に物足らず思っても、
このごろは習慣づけられていて、
無理に留めようなどとはしない。
左大臣家の源氏の夫人は例によってすぐには出て来なかった。
いつまでも座に一人でいてつれづれな源氏は、
夫人との間柄に一抹《いちまつ》の寂しさを感じて、
琴をかき鳴らしながら、
「やはらかに寝《ぬ》る夜はなくて」
と歌っていた。
左大臣が来て、
花の宴のおもしろかったことなどを源氏に話していた。
「私がこの年になるまで、
四代の天子の宮廷を見てまいりましたが、
今度ほどよい詩がたくさんできたり、
音楽のほうの才人がそろっていたりしまして、
寿命の延びる気がするようなおもしろさを
味わわせていただいたことはありませんでした。
ただ今は専門家に名人が多うございますからね、
あなたなどは
師匠の人選がよろしくてあのおできぶりだったのでしょう。
老人までも舞って出たい気がいたしましたよ」
「特に今度のために稽古《けいこ》などはしませんでした。
ただ宮廷付きの中でのよい楽人に参考になることを
教えてもらいなどしただけです。
何よりも頭中将の柳花苑《りゅうかえん》がみごとでした。
話になって後世へ伝わる至芸だと思ったのですが、
その上あなたがもし当代の礼讃《らいさん》に
一手でも舞を見せてくださいましたら
歴史上に残ってこの御代《みよ》の誇りになったでしょうが」
こんな話をしていた。
弁や中将も出て来て高欄に背中を押しつけながら
また熱心に器楽の合奏を始めた。
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【源氏物語 第八帖 花宴 はなのえん】
如月に紫宸殿で催された桜花の宴で、
光源氏は頭中将らと共に漢詩を作り舞を披露した。
宴の後、朧月夜に誘われふと入り込んだ弘徽殿で、
源氏は廊下から聞こえる歌に耳を澄ます。
照りもせず 曇りも果てぬ 春の夜の
朧月夜に似るものぞなき
源氏はその歌を詠んでいた若い姫君と出逢い契りを交わす。
素性も知らぬままに扇を取り交わして別れた姫君こそ、
春宮への入内が決まっている右大臣の
六の君(朧月夜)だった。
一月後、
右大臣家の藤花の宴に招かれた源氏は
装いを凝らして訪れた。
右大臣にかなり呑まされ、
酔いを醒ますためその場を離れた源氏。
偶然通りかかったところで、
御簾のうちにいる六の君を発見。
歌を詠みかけるが(催馬楽「石川」)、
事情を知らない六の君の姉妹たちは
「おかしな高麗人がいるものね」と訝しがる。
ついに見つけ出した、
源氏はさりげなく姫君の手を握った。
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