まもなく、陰謀の一味の面々、
近江中将入道蓮浄、法勝寺執行俊寛僧都、山城守基兼、
式部大輔雅綱、平判官康頼、宗判官信房、新平判官資行らが、
続々と捕えられて、西八条に連行されてきた。
一味うたるの報に、
西光法師は、もちろん、陰謀のばれた事を覚ると、
馬に鞭をあて、矢庭に院の御所へ急いだ。
しかし、それも道を固める平家の侍達に、
たちまち捕ってしまった。
「西八条のお召しじゃ、早く参れ」
と西光の囲りを取り囲むと、
この時に及んでも大胆な西光は、
「どうしても申上げねばならぬことがあって院の御所に行くところだ、
帰りに西八条に寄るからそのように申せ」
と人を喰ったことを言う。
「何と不敵な男だ、何を院に申上げるかわかったもんじゃない、
そうはさせないぞ」
多勢に一人身の悲しさ、西光は、馬から引ずり下され、
しばりあげられて、清盛の面前に連れてこられた。
とにかく、陰謀の首魁《しゅかい》と目されている男だから、
清盛の憎しみも又人一倍で、中庭に引き据えられた西光をみると、
「よくも、おのれ、この清盛に謀叛の心をおこしたな。
それにしても、今のそのしばられたざまは何じゃ、
何も言えまい、言えるものか、それ、こっちへ引ずれ」
と縁近く、西光を引ずり出すと、
履物をはいた足をあげて、西光の顔を右左に、
ごりごりと踏みにじった。
「元はといえば、たかが北面の侍の分際で、
うまく院に取り入って、父子《おやこ》諸共、
身分不相応の官職をだましとり、
目にあまる行ないは前々から腹に据えかねていたが、
此度《このたび》は、
罪もない天台座主に無実の罪をなすりつけ、
それでも事足りず、この平家滅亡の陰謀をめぐらした張本人、
今はもう全てを諦めて、素直に白状しろ」
と怒鳴りつけた。
西光は名だたる豪の者であったから、
先程から、顔の色一つ変えず、
傲然《ごうぜん》と清盛の言葉を聞いていたが、
「全く余計なことまで仰有《おっしゃ》るお人だ、
そういうことはこの西光の前では、口を慎んだ方が安全ですよ。
とにかく、私は院に仕える者だから、
院の執事《しつじ》である成親卿が、
院のご命令といって催されたことには、
もちろん参加するのは当然のことで、
それを、荷担しないなどとは申してはおりませんがね。
唯一つさっきから黙って承っていると耳ざわりな事を仰有る。
私が、身分不相応で、下郎《げろう》の分際だというのなら、
一体貴方は何ですか、
公卿からけいべつされていた刑部卿忠盛の子というだけで、
十四、五の頃までは無位無官、
京わらべからさえ、高平太《たかへいだ》といわれて、
さんざからかわれていたくせに、
それが、海賊を追払ったのがきっかけで、
とんとん拍子に出世したまででしょう。
その貴方と、北面の武士の子で、受領になった私とじゃ、
余り違わないどころか、余り大きな口をきくとぼろが出ますぜ」
といい返した。
清盛は、真っ赤になって怒りだした。
唇ばかりぶるぶる震えて、とっさに言葉も出ないほどである。
とにかくしゃべらせておくと又何を言い出すかわからないし、
言葉の上では分が悪い。
清盛は、
松浦太郎重俊《まつうらのたろうしげとし》をかえり見ると、
「直ぐにも首を打ちたい奴だが、陰謀の全部を白状するまでは、
責めて責めて責め抜いてやれ」
といいつけると奥へ入ってしまった。
重俊は、主人の言葉通り、あらゆる拷問を加えた。
西光はここまできては別にかくし立てすることもなかったから、
ありのままを白状した。
白状の調書は、四、五枚に記され、用がなくなると、
「あいつの口をさいて、斬ってしまえ」
という清盛の命令通り、
五条、西朱雀《にしすざく》で首を討たれた。
続いて、先に、流罪中の西光の嫡子加賀守師高、師経、
その弟の師平もそれぞれの場所で首をはねられた。
🪷🎼蛟~祟り神~ written by 藍舟
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