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源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

源氏物語&古典をはじめ、日常の生活に雅とユーモアと笑顔を贈ります🎁

平家物語24 第2巻 座主流し②〈ざすながし〉〜The Tale of the Heike🪷

この明雲大僧正は、

久我大納言顕通《こがのだいなごんあきみち》の子で、

仁安《にんあん》元年座主となり、

当時天下第一と言われる程の智識と高徳を備えた人で、

上からも下からも、尊敬されていた人だったが、

ある時、陰陽師《おんようし》の安倍泰親《あべのやすちか》が、

「これ程、智識のある人にしては不思議だが、

 明雲の名は、上に日月、下に雲と、

 行末の思いやられるお名前だ」

といったことがあったが、今になってみると、

その言葉もある程度うなずけるものがある。

 

二十一日は、座主の京都追放の日であった。

執行役人に追い立てられながら、

座主は泣くなく京をあとにして、

一先ず、一切経谷にある草庵に入った。

二十三日がいよいよ、東国伊豆に向って出発する日である。

さすがに日頃住みなれた都を離れ、

恐らくは二度と、

帰れぬであろう関東への旅に立つ大僧正の心の内には、

様々の想念が渦巻いていた。

 一行は、夜あけがた京都を立ち、

やがて、もう大津の打出の浜にまで来た。

そこからは、

比叡の山の青葉若葉の萌えたつような色どりの中に

文殊楼《もんじゅろう》の軒端《のきば》が白々とみえる。

朝夕なれ親しんできた、その姿をみると、

座主の目は忽ち涙でかき曇ってしまい、

それからは二度と顔をあげて振り返ろうとしなかった。

澄憲法印は、余りにも痛わしい座主の嘆きをみかねて、

粟津《あわづ》まで送ってきた。

しかしどこまでも送っていくわけにもいかないので、

そこで別れを告げることにした。

澄憲の気持に感激した座主は、

年来、心中にあった一心三観の教義

——これは釈迦相伝の大事なもの——を伝授された。

もちろん、

澄憲はこれを大切に心中におさめて帰京したのである。

 

山門ではこの度の沙汰は不満どころか、

全山、憤慨の極にあった。

それも西光法師親子の告げ口のせいだとばかり、

西光法師親子の命をとり給えと呪い続けていた。

いよいよ座主が伊豆送りされた二十三日、

山門では、大会議が開かれていた。

「初代|義真《ぎしん》より今日まで五十五代、

 座主が流罪になるなどという不法は行われなかった。

 いかにこの様な乱世末世の時代とはいえ、

 栄えある当山をないがしろにするやり方だ。

 即刻座主をうばい返そう」

勢の良いこれらの言葉はまるで、はやてのように全山に拡がり、

われもわれもと、わめき声をあげて、

東坂本にかけ下りてきたのである。

ここで再び会議が開かれた。

「とにかくここにいる誰もが、粟津に行って、

 座主を取り戻したいと思っているのは確かだが、

 役人がついている以上、

 果して無事に取り返せるかどうかが心配だ。

 それには先ず、山王権現のお力を借りる以外に手がない。

 もし我々を助けて、無事に座主を取戻せるものなら、

 先ずここでその兆《しるし》をみせて頂こう」

という提案で、老僧達は一心不乱に祈り始めた。

すると、山門に使われている鶴丸《つるまる》という少年が、

急に体中から汗をふき出して苦しみ始めた。

「私に十禅師権現《じゅうぜんじごんげん》がのり移ったのです。

 どんな事があっても当山の座主を他国へ追いやる事は許せません。

 そんな事になっては、

 私がこのふもとに神として祭られていても、

 何の意味もない事です」

左右の袖を顔にあてはらはらと涙を流す。

この不思議さに、

「お前が本当に、十禅師権現だというのなら、

 私共が証拠の品を渡すから、元の持主に返してみるがいい」

と老僧四、五百人の手にした数珠《じゅず》を、

床の上に投げあげた。

少年は走り廻って拾い集めると、一つの間違いもなく持主に返した。

ここに、全山の衆徒は勇気百倍し、

座主を取り戻す決意を新たにしたのである。

「これ程の神のご加護があるならば、恐るることはない。

 命をかけても、座主を連れ戻そう」

海からも山からも、座主の跡を追いかけてくる、

雲霞《うんか》の如き衆徒の群に肝《きも》をつぶした護送役人は、

座主をうっちゃって、命からがら逃げ出してしまった。

🪷🎼活殺自在 written by ilodolly

 

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