google.com, pub-8944455872984568, DIRECT, f08c47fec0942fa0

源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

源氏物語&古典をはじめ、日常の生活に雅とユーモアと笑顔を贈ります🎁

平家物語25 第2巻 座主流し③〈ざすながし〉〜The Tale of the Heike🪷


驚いたのは、明雲大僧正である。

元々、道理一点ばりの人だからここに及んでも、

喜ぶより先に、この事件の行末を気にかけていた。

「私は、法皇の勅勘を受けて流される罪人なのですから、

 少しも早く、都の内を追い出されて、

 先を急がねばならぬ身です。

 お志は有難いが、貴方方に迷惑はかけたくない、

 早くお引き取り下さい」

と言う。

しかし、このくらいで引き下る衆徒ではない。

何が何でも山に戻って貰わねば、

山の名誉にもかかわるとばかり、座主の決意を促した。

「家を出て山門に入ってからというもの、

 専ら、国家の平和を祈り、

 衆徒の皆さんをも大切にしてきたつもりですし、

 我が身にあやまちがあろうとは思われず、

 この度の事でも、

 私は、人をも神仏をも誰一人お恨み申してはおりません。

 それにしても、

 ここまで追いかけてきて下さった衆徒の皆さんの志を思うと、

 何とお礼を申し上げてよいものやら」

後は唯涙をぬぐうばかりで、

荒くれ男の多い衆徒達も一様に涙を誘われた。

「とにかく早くこれにおのり下さい」

衆徒の一人がせきたてると、

「いや昔は三千の衆徒の上に立つ主でも

 今は罪人の私、輿《こし》などはもったいない。

 たとえのぼるにしてもわらじばきで、貴方方と一緒に」

といって輿にも乗ろうとしない。

すると先程からこの様子にみかねたのか、

西塔《さいとう》の阿闍梨《あじゃり》で、

祐慶《ゆうけい》という、名うての荒法師が、

白柄の大長刀《おおなぎなた》を杖について、

七尺の長身を波うたせながら、

人の列をかきわけて前に出てくると、

座主に向って、

「そう理屈ばかり仰有《おっしゃ》るから、

 今度のような事にもお遭《あ》いになるのですよ。

 とにかく、さっさと乗って下さいよ」

とせかせたので、座主も、今はと諦めて、御輿に乗った。

 

無事に座主を取り戻した嬉しさに、

衆徒一同は喜び勇んで、けわしい山道も難なく越えて、

叡山へ帰ったのである。

叡山に戻った明雲前座主を一先ず、大講堂の庭に置くと、

再び会議が開かれた。

「勅勘を蒙って流罪と決まった前座主を取り戻したはいいが、

 果して再び座主として我らの頭上に頂くべきであろうか? 

 一体|如何《いかが》いたしたものであろう?」

これを聞いて先の祐慶は、再び前に進み出ると、

かっと見開いた両眼から、はらはらと涙をこぼしながら、

「皆の方々、よく承れ、

 この叡山はそもそも日本に二つとない霊地であり、

 鎮護国家の道場である。

 当山の衆徒の意見は、世間からも尊重され、

 決してあなどられた例《ため》しはない。

 まして、高貴高徳の人である三千の衆徒の主が、

 無実の罪をうけた事は、

 当山はもちろん、世の人々が、憤ってやまない事なのじゃ。

 この罪なき人を、何で主と崇めて悪いことがあろうか、

 もし、又これがため、朝廷よりおとがめある時は、

 この祐慶喜んで罪に服すつもりでいるのじゃ」

全山に轟《とどろ》くばかりの大音声《だいおんじょう》は、

山々の峰にこだまして、なみいる大衆の心をゆさぶった。

前座主は、東塔の南谷《みなみだに》、

妙光坊に入られる事になった。

これ程有徳の人物でも、

たまには災難にあわれることもあるのである。

🪷🎼不老不死の信仰 written by beckman

 

少納言のホームページ 源氏物語&古典 少納言の部屋🪷ぜひご覧ください🌿

https://syounagon.jimdosite.com

 

🪷聴く古典文学 少納言チャンネルは、聴く古典文学動画。チャンネル登録お願いします🪷

rakuten:f462152-satsumasendai:10002198:detail