桃園のお邸《やしき》は北側にある普通の人の出入りする門をはいるのは
自重の足りないことに見られると思って、
西の大門から人をやって案内を申し入れた。
こんな天気になったから、
先触れはあっても源氏は出かけて来ないであろうと
宮は思っておいでになったのであるから、
驚いて大門をおあけさせになるのであった。
出て来た門番の侍が寒そうな姿で、
背中がぞっとするというふうをして、
門の扉をかたかたといわせているが、
これ以外の侍はいないらしい。
「ひどく錠が錆《さ》びていてあきません」
とこぼすのを、源氏は身に沁《し》んで聞いていた。
宮のお若いころ、
自身の生まれたころを源氏が考えてみるとそれはもう三十年の昔になる、
物の錆びたことによって人間の古くなったことも思われる。
それを知りながら仮の世の執着が離れず、
人に心の惹かれることのやむ時がない自分であると源氏は恥じた。
いつのまに 蓬《よもぎ》がもとと 結ぼほれ
雪ふる里と 荒れし垣根《かきね》ぞ
源氏はこんなことを口ずさんでいた。
やや長くかかって古い門の抵抗がやっと征服された。
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