秋風が須磨の里を吹くころになった。
海は少し遠いのであるが、
須磨の関も越えるほどの秋の波が立つと行平が歌った波の音が、
夜はことに高く響いてきて、
堪えがたく寂しいものは謫居《たっきょ》の秋であった。
居間に近く宿直《とのい》している少数の者も皆眠っていて、
一人の源氏だけがさめて一つ家の四方の風の音を聞いていると、
すぐ近くにまで波が押し寄せて来るように思われた。
落ちるともない涙にいつか枕は流されるほどになっている。
琴《きん》を少しばかり弾《ひ》いてみたが、
自身ながらもすごく聞こえるので、弾きさして、
恋ひわびて泣く音《ね》に紛《まが》ふ浦波は
思ふ方より風や吹くらん
と歌っていた。
惟光《これみつ》たちは悽惨なこの歌声に目をさましてから、
いつか起き上がって訳もなくすすり泣きの声を立てていた。
その人たちの心を源氏が思いやるのも悲しかった。
【源氏物語 第十二帖 須磨(すま)】
朧月夜との仲が発覚し、追いつめられた光源氏は
後見する東宮に累が及ばないよう、
自ら須磨への退去を決意する。
左大臣家を始めとする親しい人々や藤壺に暇乞いをし、
東宮や女君たちには別れの文を送り、
一人残してゆく紫の上には領地や財産をすべて託した。
須磨へ発つ直前、桐壺帝の御陵に参拝したところ、
生前の父帝の幻がはっきり目の前に現れ、
源氏は悲しみを新たにする。
須磨の侘び住まいで、
源氏は都の人々と便りを交わしたり
絵を描いたりしつつ、淋しい日々を送る。
つれづれの物語に明石の君の噂を聞き、
また都から頭中将がはるばる訪ねてきて、
一時の再会を喜び合った。
やがて三月上巳の日、
海辺で祓えを執り行った矢先に
恐ろしい嵐が須磨一帯を襲い、
源氏一行は皆恐怖におののいた。
🍁🎼秋の足音 written by のる🍁
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