「橘の 香をなつかしみ ほととぎす
花散る里を 訪ねてぞとふ」
昔の御代《みよ》が恋しくてならないような時には
どこよりもこちらへ来るのがよいと今わかりました。
非常に慰められることも、
また悲しくなることもあります。
時代に順応しようとする人ばかりですから、
昔のことを言うのに
話し相手がだんだん少なくなってまいります。
しかしあなたは私以上にお寂しいでしょう」
と源氏に言われて、
もとから孤独の悲しみの中に浸っている女御も、
今さらのようにまた心がしんみりと
寂しくなって行く様子が見える。
人柄も同情をひく優しみの多い女御なのであった。
人目なく 荒れたる宿は
橘の花こそ軒の つまとなりけれ
とだけ言うのであるが、
さすがにこれは貴女《きじょ》であると
源氏は思った。
さっきの家の女以来
幾人もの女性を思い出していたのであるが、
それとこれとが比べ合わせられたのである。
【源氏物語 第十一帖 花散里(はなちるさと)】
光源氏25歳夏の話。
五月雨の頃、
源氏は故桐壺院の妃の一人麗景殿女御を訪ねる。
妹の三の君(花散里)は源氏の恋人で、
姉妹は院の没後源氏の庇護を頼りに
ひっそりと暮らしていた。
訪問の途中、
かつて会った中川の女の元に歌を詠みかけるが、
既に心変わりしてしまったのかやんわりと拒絶される。
女御の邸は橘の花が香り、
昔を忍ばせるほととぎすの声に
源氏は女御としみじみと昔話を語り合い、
その後そっと三の君を訪れた。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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