目的にして行った家は、
何事も想像していたとおりで、
人少なで、寂しくて、身にしむ思いのする家だった。
最初に女御の居間のほうへ訪ねて行って、
話しているうちに夜がふけた。
二十日月が上って、
大きい木の多い庭がいっそう暗い蔭《かげ》がちになって、
軒に近い橘《たちばな》の木がなつかしい香を送る。
女御はもうよい年配になっているのであるが、
柔らかい気分の受け取れる上品な人であった。
すぐれて時めくようなことはなかったが、
愛すべき人として院が見ておいでになったと、
源氏はまた昔の宮廷を思い出して、
それから次々に昔恋しいいろいろなことを思って泣いた。
杜鵑がさっき町で聞いた声で啼《な》いた。
同じ鳥が追って来たように思われて源氏はおもしろく思った。
「いにしへのこと語らへば杜鵑いかに知りてか」
という古歌を
小声で歌ってみたりもした。
【源氏物語 第十一帖 花散里(はなちるさと)】
光源氏25歳夏の話。
五月雨の頃、
源氏は故桐壺院の妃の一人麗景殿女御を訪ねる。
妹の三の君(花散里)は源氏の恋人で、
姉妹は院の没後源氏の庇護を頼りに
ひっそりと暮らしていた。
訪問の途中、
かつて会った中川の女の元に歌を詠みかけるが、
既に心変わりしてしまったのかやんわりと拒絶される。
女御の邸は橘の花が香り、
昔を忍ばせるほととぎすの声に
源氏は女御としみじみと昔話を語り合い、
その後そっと三の君を訪れた。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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