解けてきた池の薄氷にも、
芽をだしそめた柳にも自然の春だけが見えて、
いろいろに源氏の心をいたましくした。
「音に聞く 松が浦島《うらしま》 今日ぞ見る
うべ心ある海人《あま》は住みけり」
という古歌を口ずさんでいる源氏の様子が美しかった。
ながめかる 海人の住処《すみか》と 見るからに
まづしほたるる 松が浦島
と源氏は言った。
今はお座敷の大部分を仏に譲っておいでになって、
お居間は
端のほうへ変えられたお住居《すまい》であったから、
宮の御座と源氏自身の座の近さが覚えられて、
ありし世の 名残《なご》りだになき 浦島に
立ちよる波の めづらしきかな
と取り次ぎの女房へお教えになるお声も
ほのかに聞こえるのであった。
源氏の涙がほろほろとこぼれた。
今では人生を悟りきった尼になっている女房たちに
これを見られるのが恥ずかしくて、
長くはいずに 源氏は退出した。
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