更衣は初めから
普通の朝廷の女官として奉仕するほどの軽い身分ではなかった。
ただお愛しになるあまりに、
その人自身は
最高の貴女《きじょ》と言ってよいほどのりっぱな女ではあったが、
始終おそばへお置きになろうとして、
殿上で音楽その他のお催し事をあそばす際には、
だれよりもまず先に この人を常の御殿へお呼びになり、
またある時は お引き留めになって
更衣が 夜の御殿から朝の退出ができず
そのまま 昼も侍しているようなことになったりして、
やや軽いふうにも見られたのが、
皇子のお生まれになって
以後 目に立って重々しくお扱いになったから、
東宮にも どうかすればこの皇子をお立てになるかもしれぬと、
第一の皇子の御生母の女御は疑いを持っていた。
この人は
帝の最もお若い時に入内《じゅだい》した最初の女御であった。
この女御がする批難と恨み言だけは
無関心にしておいでになれなかった。
この女御へ済まないという気も 十分に持っておいでになった 。
帝の深い愛を信じながらも、 悪く言う者と、
何かの欠点を捜し出そうとする者ばかりの宮中に、
病身な、そして無力な家を背景としている心細い更衣は、
愛されれば愛されるほど苦しみがふえるふうであった。
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