恋しかった点でも源氏には忘れがたい人であったから、
なお おりおりは 空蝉の心を動かそうとする手紙を書いた。
そのうち常陸介《ひたちのすけ》は
老齢のせいか病気ばかりするようになって、
前途を心細がり、
悲観してしまい、
息子たちに空蝉のことばかりをくどく遺言していた。
「何もかも私の妻の意志どおりにせい。
私の生きている時と同じように仕えねばならん」
と繰り返すのである。
空蝉は薄命な自分はこの良人《おっと》にまで死別して、
またも険《けわ》しい世の中に
漂泊《さす》らえるのであろうかと歎《なげ》いている様子を、
常陸介は病床に見ると死ぬことが苦しく思われた。
生きていたいと思っても、
それは自己の意志だけでどうすることもできないことであったから、
せめて愛妻のために魂だけをこの世に残して置きたい、
自分の息子たちの心も絶対には信ぜられないのであるからと、
言いもし、
思いもして悲しんだがやはり死んでしまった。
🍁灰の扉 written by のる 🍁
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