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源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

源氏物語&古典をはじめ、日常の生活に雅とユーモアと笑顔を贈ります🎁

【私本太平記27 】💐ばさら大名②〜古くから近江源氏と世に呼ばるる佐々木定綱、高綱らの末裔の門たるは、鎌倉初期において、佐々木系は二つに分れ、一は江南の六角家、一は江北の京極家となっている。

「や。……さっきの武者が」

「なに。あの群れの中に」

「見えまする。しかも、何やら佇《たたず》み合って」

 犬上郡 の野路をすぎ、

不知哉《いさや》川を行くてに見出したときである。

華やかな旅装の一と群れが河原に立ちよどんで、

頻りとこっちを振向いていた。

どうします?

 二の足をふむ右馬介のたじろぎも、

又太郎には眼の隅のものでもなかった。

駒脚はまっすぐにそのまま不知哉川の河原へ近づいている。

 先はこっちを待っていたに違いない。

さいぜんの黒鹿毛に乗った侍は、そこの群れを一人離れて、

すぐこなたへ寄って来た。

 が、前とは異なって、ていねいに。

「あいや高氏どの。

つい今ほどの失礼は、 平におゆるしあれよ。

 連れの御方に追いつかんと、上わの空なるぶざまでおざった。

 ははははは、それにさぞ、御不審でもおわせしならん」

 歯ぐきを見せて意味もなくよく笑う男である。

 装いなど、ひとかどの者とも見えるに、

 又太郎にはその人柄に何かいやしさを覚えずにいられない。

「なんの、いらぬ御会釈。それよりはまず伺いたい。

 わしを高氏とは、よう分りよの」

「いや、それしきなことぐらいは。ハハハハ」と、

またぞろ哄笑して、

「——年暮《くれ》の頃より疾《と》く承知いたしておる。

 野州足利ノ庄 のおん曹司が、忍び上洛しておらるるとは、

 世間は知らいでも、

 それがしの耳目《じもく》となっておる

 放免 《ほうめん》(目明し)どもはみな賢い奴、

 すぐ嗅《か》ぎ知って来たことでおざる」

さてはいけない。運の尽《つ》きよ、

ただではすむまい。

 又太郎の後ろにあって、

右馬介は、キシキシと体が軋《きし》み鳴るような緊迫した顔を

硬《こわ》め、手を太刀へ忍ばせていた。

 けれど、安手によく笑う侍は、

なお、下種《げす》な歪《ゆが》み笑いを面に消さずに。

「オオそれよ。また数日前には、そこな郎従とおふたりで、

 淀川舟を山崎辺で降りられたことがおありであろ。

 これは放免の報らせでのうて、

 さる貴人の座にてお話に出たことだが」

「……いかにも。そして」

「その御方の言では、六波羅の内にも、

 かつて見たことのない薄あばたの一曹司と、

 終日、ひとつ舟に乗り合せたが、

 そも、いずこの曹司ならんか。

 ……どこやら大容《おおよう》な風、そして異相、

 まことに凡《ただ》ならぬ者と、

 頻りにお気にかけておられしゆえ、それがしが推量にて、

 それこそ、

 忍び上洛中の足利貞氏 の嫡子又太郎高氏にて候わん、

 と申せしところ、小膝を叩かれて、

 あな惜し、さる良き機縁をば逸せしかと、

 いたく残念がッておられ申した」

 意外な彼のことばに。

「では、そのお人は、前ノ大内記日野俊基朝臣でおわそうが」

「や、御存知か」

「わしも、あとにて知った」

「いよいよ、御縁がある」

「ところで御辺は何者」

「申しおくれた」

 彼は、急にあわてて。

「——禁裡大番 《きんりおおばん》の武者、
 #美濃国 の住人 土岐左近頼兼 《ときさこんよりかね》と申すもの。

 この正月にて解番《げばん》となりしゆえ、

 国元へまかり帰る途中でおざる」

「では、わしも告げよう。察しのとおり、

 自分は足利又太郎高氏 にちがいないが、

 先刻、高氏ちがいと申されたのは、いかなるわけか」

「さ、それが奇遇。

 お年頃もお名も、まったく同じ高氏殿が、

 もひとりあれにおらるるのじゃ。

 ハハハハ、世間はせまい。高氏殿と高氏殿とが、

 かかる道にて行き会うとは」

 この世間に、自分と同じ高氏という“名のり”を持つ人間が、

もひとりいたとは初耳だった。

さして、ふしぎとはなしえないまでも、

土岐左近の言のごとく、人生途上、

まこと行路の一奇遇にはちがいない。

 が、その同名の高氏とは、

いったい、何処のいかなる素姓《すじょう》の人物なのか。

——左近が語るところを次に陳《の》べてみるならば。

この近江路の要衝《ようしょう》を占める愛知《えち》、

犬上、坂田の諸郡にまたがる豪族といえば、

古くから近江源氏と世に呼ばるる佐々木定綱、

高綱らの末裔《まつえい》の門たるは、

改めていうまでもない。

 だが、鎌倉初期において、佐々木系は二つに分れ、

一は江南の六角家、

一は江北の京極家となっている。

💐🎼かぐや-kaguya-月のゆりかご written by #田中芳典   

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