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源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

源氏物語&古典をはじめ、日常の生活に雅とユーモアと笑顔を贈ります🎁

【平家物語21 第1巻 神輿振〈みこしぶり〉】〜 The Tale of the Heike🪷

加賀守師高、目代師経の断罪を度々叫び続けていたのにも拘らず、

一向に沙汰のないのにしびれを切らした山門の僧兵達は、

再び実力で、事を処理する決心を固めた。

 折柄行われる予定の日吉《ひえ》の祭礼をとりやめると、

安元《あんげん》三年四月、御輿を陣頭に京へくり出して来た。

賀茂の河原から、法成寺《ほうじょうじ》の一角に兵をくり出し、

御所を東北から囲む体形で迫ってきた。

京の街々辻々には、

坊主、神官、その他、各寺、神社に仕える者達がはしくれに至るまで、

都大路をぎっしり埋めていた。

神輿は、折柄の朝日を受けて、輝くばかりのきらびやかさで、

人目をうばうばかりである。

事に驚いた朝廷側からは、

早速、源平両家の大将軍に、出陣の命令を送った。

 

平家方からは、左大将重盛が三千余騎で、

陽明《ようめい》、待賢《たいけん》、郁芳《ゆうほう》の三門を固め、

宗盛、知盛《とももり》以下の諸将は、西南の守備に就いた。

一方、北門は、

大内《だいだい》守護の職にあった源三位頼政《げんざんみよりまさ》が、

僅か三百余騎の手兵を持って守っていたが、

何分、広さは広し、人数は少いので、

自然まばらな配置になるのも無理のないことであった。

 この北門守備の手薄に目をつけた僧兵は、

ここから、神輿を入れようと、攻勢を開始した。

ところが、

頼政は智力勇気共に備わった一筋縄ではいかぬ男であったから、

この形勢をみると俄《にわ》かに馬から下り、

兜《かぶと》を脱ぎ、手を洗い清めると、

うやうやしい態度で、神輿に拝礼した。

総大将のする様子をみて、三百騎の家来どもも、

それぞれ、礼をつくして神輿を拝んだ。

僧兵は、予想もしなかったこの光景に、

しばし呆然《ぼうぜん》と立ちすくんでいると、

頼政の軍から、

一きわ華やかに鎧《よろい》をつけた男が、進み出てきて、

神輿の前に跪《ひざまず》くと主人からの口上を、

力強い声で述べたてた。

「暫く、山門の方々お聞き下されい、主人頼政が、

 皆様方に申し上げたい事を言いつかって参ったものでございます。

 この度の山門の方々のお訴えは、

 まことに、理由のある尤《もっと》もな事なのを、

 今の今までお取上げにならない、お上の態度には、

 私自身も、そして世間もともどもに、残念に思っていたのですが、

 不幸にもこういう事態になり、

 神輿をお通ししたいのは山々でございますが、

 何分頼政の兵は少なく、この頼政が明けて通したとあっては、

 後々、山門の貴方方がどんな風に言われるかもわかりません。

 又私といたしましても、易々《やすやす》と門を明けることは、

 勅命にもそむく事であり、と言って、

 年来、信仰して居ります山王様に弓矢をひいたとあっては、

 どのような罰を蒙ります事やら、

 弓矢の道も捨てねばならぬ次第ともなり、

 いずれにしても、

 この苦しい胸の内をどういたそうかと迷っているのです。

 ただ東の陣は、小松殿が多勢の軍勢で固めておられますので、

 そちらからお入り下されば、

 全てが救われるのではないかと思うのですが」

使者の言葉に、僧兵一同、暫くためらっていた。

若い者の中には、

「何も遠慮することはない、さっさと入ってしまおう」

というものも多かったが、

中に、雄弁家として知られた老僧、豪運《ごううん》が、

「頼政殿のいうところ、まことに尤もである。

 われわれとしても、神輿を陣頭に、訴えにやってきたのだから、

 多勢の中を打ち破って通ってこそ、

 始めて、後々まで評判が残ろうというものだ。

 頼政殿は、清和《せいわ》源氏の嫡流《ちゃくりゅう》で、

 武芸はもとより、文武両道に優れた得難いお人、

 かつて近衛院の頃、お歌会で、深山《みやま》の花という即題に、

 深山木のそのこずえともみえざりし

  桜は花にあらわれにけり

 と即座に、

 お答え申し上げた程の風流のたしなみも一方ならぬお人じゃ。

 これ程の人物に、いかに時が時だといっても、

 恥を与えて、神輿を通すことができようか、

 さあ皆の者、もう一度、神輿をかついで他に廻ることにいたそう」

豪運の名調子には数千人の僧兵の内、誰一人異議をはさむ者もなかった。

神輿をかついで今度は、

重盛の固める待賢門に向って行軍を始めたのである。

 待賢門から神輿を乗り入れようとすると、

ここでは、待ってましたとばかり、平家の兵達が、

一斉に弓を射たので、神輿にも、何本か矢が当り、

僧兵達は、射殺されるもの、傷を負う者が続出した。

さながら、阿鼻叫喚《あびきょうかん》のちまたで、

この圧倒的に優勢な兵力の前には、さしもの僧兵も、

神輿を振り捨てると、一目散に、比叡の山へ帰っていった。

🪷🎼破られていた約束 written by Keido Honda

 

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