住み馴れるにしたがって
ますます凄い気のする山荘に待つ恋人などというものは、
この源氏ほどの深い愛情を持たない相手をも
引きつける力があるであろうと思われる。
ましてたまさかに逢えたことで、
恨めしい因縁のさすがに浅くないことも思って歎く女は
どう取り扱っていいかと、
源氏は力限りの愛撫を試みて慰めるばかりであった。
木の繁《しげ》った中からさす篝《かがり》の光が
流れの蛍と同じように見える庭もおもしろかった。
「過去に寂しい生活の経験をしていなかったら、
私もこの山荘で逢うことが心細くばかり思われることだろう」
と源氏が言うと、
「いさりせし かげ忘られぬ 篝火《かがりび》は
身のうき船や 慕ひ来にけん
あちらの景色によく似ております。
不幸な者につきもののような灯影《ほかげ》でございます」
と明石が言った。
「浅からぬ 下の思ひを知らねばや
なほ篝火の 影は騒げる
だれが私の人生観を悲しいものにさせたのだろう」
と源氏のほうからも恨みを言った。
少し閑暇《ひま》のできたころであったから、
御堂《みどう》の仏勤めにも没頭することができて、
二、三日源氏が山荘にとどまっていることで
女は少し慰められたはずである。
🌹🎼最果てのルージュ written by のる
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