さ夜中に 友よびわたる 雁がねに
うたて吹きそふ 荻《をぎ》のうは風
身にしむものであると若君は思いながら
宮のお居間のほうへ帰ったが、
歎息《たんそく》してつく吐息《といき》を
宮がお目ざめになってお聞きにならぬかと遠慮されて、
みじろぎながら寝ていた。
若君はわけもなく恥ずかしくて、
早く起きて自身の居間のほうへ行き、手紙を書いたが、
二人の味方である小侍従にも逢うことができず、
姫君の座敷のほうへ行くこともようせずに
煩悶《はんもん》をしていた。
女のほうも父親にしかられたり、
皆から問題にされたりしたことだけが恥ずかしくて、
自分がどうなるとも、
あの人がどうなっていくとも深くは考えていない。
美しく二人が寄り添って、愛の話をすることが悪いこと、
醜いこととは思えなかった。
そうした場合がなつかしかった。
こんなに皆に騒がれることが
至当なこととは思われないのであるが、
乳母などからひどい小言《こごと》を言われたあとでは、
手紙を書いて送ることもできなかった。
大人はそんな中でも
隙《すき》をとらえることが不可能でなかろうが、
相手の若君も少年であって、
ただ残念に思っているだけであった。
🪻🎼甘い夢の一つ written by のる
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