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源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

源氏物語&古典をはじめ、日常の生活に雅とユーモアと笑顔を贈ります🎁

【私本太平記20 第1巻 大きな御手12 みて】役人は、賄賂の取り放題、坊主は強訴と我欲のほかはねえ金襴の化け物だ。地頭は年貢いじめにもすぐ太刀の反りを見せ、妾囲いと田楽踊りをいいことにしていやアがる

こう機嫌を直すと、

彼らは衆の中では最も衆を明るくする特性を持っていた。

——一時はどうなることかと恐れ、

また彼らの体臭に近づきかねていた男女も、

みるみるうちに、彼らのとぼけや冗談に巻きこまれて、

舟は和気藹々《あいあい》な囀《さえず》りを乗せて、

大河の午後をなお溯《のぼ》っている。

「なアみんな、俺たちも悪かったが、

 日がな一日、舟の中じゃ、

 何ぼ何でも飽々《あきあき》するじゃねえか。

 ——たとえばよ、俺たち貧乏人の小伜ときたら、

 何を望もうとしても、生れ落ちた莚《むしろ》からは、

 身うごきも出来ねえ今の世の中と同じようなもンだろうぜ、

 この舟は」

 すっかり乗客と仲よくなったつもりの彼らは、

あたりの人にまでやたらに酒をすすめたりなどしながら、

ここは大河の中とばかり、

言いたい三昧《ざんまい》の舌を振るい出した。

「ええおい。世間の奴らは、

 よく俺たちを鼻つまみにしやがるが、

 いったい、

 俺たちを人非人《ひとでなし》みたいにいう奴らの方は、

 どうなんだと訊きてえんだ」

 そこらから始まって。

「上役人は、賄賂《わいろ》の取り放題だし、

  坊主は強訴《ごうそ》と我欲のほかはねえ金襴《きんらん》の化け物だ。

  地頭は年貢いじめにもすぐ太刀の反《そ》りを見せ、

  妾囲いと田楽踊りをいいことにしていやアがる。

  去年の元亨《げんこう》元年の夏は、

  近年の大飢饉ともいわれたのに、

  いったい公卿の行き仆れや武家の飢死が一人でもあったかい。

  ……ええおい、そこで乳呑みを抱いている女衆よ。

  おめえの乳房なども、いくら絞ったッて、

  赤子の口には一《ひ》と雫《しずく》も垂れはしめえが」

口吻の裏には、いくぶん、

さっきの相手だった公卿主従への面当てもあるような調子だった。

 さすが、これは耳障《みみざわ》りであったらしい。

鷹野姿の公卿は、せっかくの読書を止め、

それをふところに仕舞うと、

自分の方から無頼の仲間へ呼びかけた。

「これこれ、そこな若雑《わかぞう》ども、

 おもしろいことを申したな」

「へえ、面白いとお聞きでございましたか」

「むむ。いったい誰が、そちの申したように、

 賄賂を貪《むさぼ》りおるだろうか」

「へへへへ。誰がって、数えきれたもンじゃございません。

 小物大物、まああなたさまがたの方が、

 よくご存じでございましょう」

「さよう。では、わしの方から話してつかわそうか」

「ぜひ、ひとつ」

「よろしい。舟にも書物にも、わしも折ふし飽いたところだ。

 談義してつかわす程に、その酒を一碗、これへ持ってまいれ」

「えっ、仲間どものこの酒を、

 召上がって下さると仰っしゃいますか? ……」

 公卿もさまざま。

さても風変りな公卿を見るものかな。

 ——こなたの足利又太郎は、

舟べりに凭《もた》せていた身を起して、

思わずその者の鮮烈な存在へ、好奇な眼を凝《こ》らしてしまった。

「……うまい」

 と、一碗の酒を、見事、

息をつかずに飲みほした当の若公卿は、

気を呑まれている無頼の若雑たちへ向って、さらに、

「もう一献酌いで欲しいぞ。なみなみと酌いでおくりゃれ」

と、ほほ笑んでいう。

 それをも、ぐっと干すと、

さすが頭巾笠のうちの眼もともほんのり桜色に染まった。

さて、約束の談義とは、

それからの気概りんりんたるものだった。

🛥️🎼儀来河内 written by 秦暁

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