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源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

源氏物語&古典をはじめ、日常の生活に雅とユーモアと笑顔を贈ります🎁

【私本太平記23 第1巻 大きな御手15〈みて〉】〜丹波篠村ほか数ヵ村は、下野国とは遠く離れているが、足利家代々相続の飛び領の地だった。同様な小領土は、他地方にもあり、ここだけではないのである。

「やっ、もしや?」

 とつぜん、馬上の者が、

土にぽんと音をさせて降り立ったので、

それには主従も、何事かと、

怪訝《いぶか》りを持たないわけにゆかなかった。

「おう、間違いはない」と、

武士は又太郎の前へひざまずいた。

そしてもいちど、松明の下から、

しげしげと仰ぎ見て——

「おそれながらあなた様は、

 下野国《しもつけ》足利ノ庄の若殿、又太郎高氏様と見奉りますが」

「なに。わしを又太郎高氏と知ってか」

「知らいでどう仕りましょう。

 多年、足利表のお厩《うまや》にも召使われておりましたれば」

「では、篠村に来ておるわが家の郎党よな」

「はっ。御一族の松永殿に従って、

  足利ノ庄より

 この丹波篠村の御領所へ移ってまいった一名にござりまする。

 ……がしかし、若殿には、いかなるわけで、かかる遠くまで」

「さてはそうか。

じつはその篠村の領所を訪ねんと、これまで参った途中よ。

 篠村まで、あと道のりはどれほどか」

「なんの御案内仕りまする。

 汚《むさ》い鞍《くら》ではございますが、

 どうぞ、それがしの駒の背へ」

「が、そちは」

「京へ罷《まか》る途中でございましたが、

 それどころかは。これより篠村へ引っ返しまする。

 いざ疾《と》う御馬上に」

 武士はみずから馬の口輪を取り、

連れの若党を叱咤して、元の道へ走らせた。

彼らの在所篠村の領家(領主の代務所)へ先触れさせたものだろう。

 丹波篠村ほか数ヵ村は、

下野国《しもつけ》とは遠く離れているが、

足利家代々相続の飛び領の地だった。

同様な小領土は、他地方にもあり、

ここだけではないのである。

 で、そうした離れ領土には、

本国から一族の確かな者をやって、

そこに土着させておく。

年貢取立ての代務やら主家との連絡など、

つまり国司の目代と似たようなものだった。

「おう、お見えらしい」

 領家の門前には、

先ぶれをうけた代官の松永経家、書記の引田妙源などが、

驚き顔を並べて出迎えていた。

 ——頃はもう夜半をすぎた時刻だった。

「経家、昨夜は夜半《よわ》に驚かしてすまなんだな」

むさぼり眠って、さて醒めて、

湯浴み食事などもすました翌る日。

 一室には、又太郎のための上座が設《しつら》えられていた。

代官の松永経家は下座に平伏して。

「どう仕りまして。御本国におわせば、

 かけ替えもない大事なお体。

 その君が、どうしてと、一時は胆を冷やしましたが、

 やがて御仔細を伺って」

「はははは、胸をなでたか。

 ……ところで経家、さっそくだが、

 脚のよい駒二頭に鞍をおかせ、旅糧《たびがて》なども、

 着けさせておいてくれい」

「はや、今日にも」

「馬を借ろうがため立寄ったまで。

 蝦夷の乱とも聞いたので帰国をいそぐ」

「お引止めはいたしますまい。北方の変はおろか、

 当地にて観ておりましても、

 世上、ただならぬものを、特に近年は覚えまする」

「そちもな……、そう観《み》るか」

「あらたに即位あらせられしお若きみかどの、

 比類のない御英邁《ごえいまい》さを伺うにつけ。

 また、天皇親政と謳《うと》うて、

 時弊《じへい》の刷新に、

 意気をあげている一部の公卿がたをながめましても」

「オ。思いあたるわ」

と、又太郎はここで、

 淀川舟で乗り合わせたた異色な若公卿の言動をつぶさに告げて——

「そも、ああいう公卿振りが、今様な近時の禁中なのであろうか。

  またその人は、いかなる身分のものやらと、

  いまだに謎としておるが」

と、聞くうちにも、

首かしげている経家にただしてみた。

🍃🎼#梅に鶯 written by #ハヤシユウ 

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