「今になりまして、
お居間の御簾の前などにお席をいただくことかと
私はちょっと戸惑いがされます。
どんなに長い年月にわたって
私は志を申し続けてきたことでしょう。
その労に酬《むく》いられて、
お居間へ伺うくらいのことは
許されていいかと信じてきましたが」
と言って、源氏は不満足な顔をしていた。
「昔というものは皆夢でございまして、
それがさめたのちのはかない世かと、
それもまだよく決めて思われません境地に
ただ今はおります私ですから、
あなた様の労などは静かに考えさせていただいたのちに
定《き》めなければと存じます」
女王の言葉の伝えられたのはこれだった。
だからこの世は定めがたい、頼みにしがたいのだと、
こんな言葉の端からも源氏は悲しまれた。
「人知れず 神の許しを 待ちしまに
ここらつれなき 世を過ぐすかな」
ただ今はもう神に託して
おのがれになることもできないはずです。
一方で私が不幸な目にあっていました時以来の
苦しみの記録の片端でもお聞きくださいませんか」
源氏は女王と直接に会見することを
こう言って強要するのである。
そうした様子なども昔の源氏に比べて、
より優美なところが多く添ったように思われた。
その時代に比べると年はずっと行ってしまった源氏ではあるが、
位の高さにはつりあわぬ若々しさは保存されていた。
🪷表象 written by 藍舟
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