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源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

源氏物語&古典をはじめ、日常の生活に雅とユーモアと笑顔を贈ります🎁

平家物語3〈殿上の闇討(やみうち)②〉〜The Tale of the Heike 🪷


 戦場で鍛え上げた忠盛の目は、宮中のうす暗いところで、

かすかに人の気配のするのを敏感に感じ取った。

彼はやおら、刀を抜き放つと、

びゅん、びゅんと振り廻《まわ》したからたまらない。

大体が、臆病者揃いの公卿たちは、

闇夜《やみよ》にひらめく一閃《いっせん》のすさまじさに、

かえって生きた心地もなく、呆然と見ていただけだった。

 

 主人が大胆な男だから、家来の方もまた粒よりだ。

左兵衛尉平家貞《さひょうえのじょうたいらのいえさだ》という男は、

狩衣《かりぎぬ》の下にご丁寧にも鎧《よろい》までつけて、

宮中の奥庭に、でんと御輿《みこし》を据えて動かない。

蔵人頭《くらんどのとう》の者が、

目ざわりだから、どいてくれと言うと、

こっちは、待ってましたとばかり、

「どうも今夜あたり、闇討があるって話ですね。

 やっぱり主人の死に際は、見ておきたいからね」

と洒々《しゃあしゃあ》と答えたまま平気な顔をしていたという。

ここまではっきりいわれては、どうにも仕方がない。

闇討計画は、自然、おじゃんになってしまった。

 

 やがて節会がにぎやかにはじまると、

忠盛も、鳥羽院にうながされて、舞を舞いはじめた。

武芸にすぐれ、度胸満点の忠盛も、舞の方は余り得手《えて》ではない。

それにこの人は生れつきの眇目《すがめ》である。

眇目の踊りは、どうひいき目にみても、

余り優美ではなかったろう。

それを公卿達は喜んだ、

日頃のうっぷんをはらすのはこの時とばかりにはやし立てる。

「伊勢平氏《いせへいし》は眇目《すがめ》、伊勢平氏は眇目」

この単純な言葉の中には、忠盛の自尊心をおそろしく傷つけるものがあった。

 

 伊勢は元々、平氏の本拠である。

ここはまた、陶器の産地であって瓶子《へいし》や酢《す》がめが作られる。

 今は、昇殿も許され、殿上人に伍《ご》して舞う身ながら、

元はといえば、お前なんか、伊勢の田舎《いなか》ものじゃないか、

ひっこめ、ひっこめ、というわけなのである。

 さすがに忠盛も、この意地悪な公卿共の相手が、

わずらわしくなってきて、

刀を主殿寮《とのもりょう》に預けるとさっさと帰ってきてしまった。

 

ところで、腹の虫のおさまらないのは公卿達である。

闇討は、ばれてしまうし、折角、酒のサカナにして、

満座で恥をかかせようと思うと、とっとと帰ってしまうし、

このまま引き下るのは、何としても業腹である。すると、その一人が、

「大体、節会の晩に、刀を持ってくるというのは、不見識きわまる」

 といい出した。

「まったくだ、第一、あいつは、武装兵のお供まで連れていたんだぞ」

「こりゃ、明らかに、法律違反じゃないのかな」

理由さえつけば、でっちあげは、お手のものである。

早速、代表者が、鳥羽院のところへ訴えてきた。

 呼び出しが来ても、しかし、忠盛はあわてなかった。

むしろ、今来るか、今来るかと待っていたところである。

心配そうな鳥羽院や、

ざまあ見やがれとでもいった公卿たちを尻目《しりめ》にかけて、

彼の弁舌はさわやかであった。

「どうも、私の知らないうちに、

 家の者が、勝手に何かしたらしいですなあ。

 何か不穏な噂《うわさ》でも聞きこんで、

 心配して来たんじゃないかと思っています。

 もし何なら、呼び出しましょうか? 

 どうも近頃の若い者は、気が早くて困りますよ。

 何? 刀、ああ、あれは、主殿寮の人に渡した筈ですよ、

 とにかく、中を見てから、文句はきかせて頂きましょう」

こういった調子である。

ところで、問題の刀が提出されてみて、公卿達は、あっと、驚いた。

中には銀箔を塗った木刀が、麗々しく、

黒塗のさやに納っていたのである。

🍃🎼嵐を纏う written by のる

 

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