雲井の雁はちょうど昼寝をしていた。
薄物の単衣を着て横たわっている姿からは暑い感じを受けなかった。
可憐《かれん》な小柄な姫君である。
薄物に透いて見える肌《はだ》の色がきれいであった。
美しい手つきをして扇を持ちながらその肱《ひじ》を枕にしていた。
横にたまった髪はそれほど長くも、多くもないが、
端のほうが感じよく美しく見えた。
女房たちも几帳の蔭《かげ》などにはいって昼寝をしている時であったから、
大臣の来たことをまだ姫君は知らない。
扇を父が鳴らす音に何げなく上を見上げた顔つきが可憐で、
頬《ほお》の赤くなっているのなども親の目には非常に美しいものに見られた。
「うたた寝はいけないことだのに、なぜこんなふうな寝方をしてましたか。
女房なども近くに付いていないでけしからんことだ。
女というものは始終自身を護《まも》る心がなければいけない。
自分自身を打ちやりしているようなふうの見えることは品の悪いものだ。
賢そうに不動の陀羅尼《だらに》を読んで
印を組んでいるようなのも憎らしいがね。
それは極端な例だが、
普通の人でも少しも人と接触をせずに奥に引き入ってばかりいるようなことも、
気高《けだか》いようでまたあまり感じのいいものではない。
太政大臣が未来のお后《きさき》の姫君を教育していられる方針は、
いろんなことに通じさせて、
しかも目だつほど専門的に一つのことを深くやらせまい、
そしてまたわからないことは何もないようにということであるらしい。
それはもっともなことだが、人間にはそれぞれの天分があるし、
特に好きなこともあるのだから、
何かの特色が自然出てくることだろうと思われる。
大人になって宮廷へはいられるころはたいしたものだろうと予想される」
などと大臣は娘に言っていたが、
「あなたをこうしてあげたいといろいろ思っていたことは空想になってしまったが、
私はそれでもあなたを世間から笑われる人にはしたくないと、
よその人のいろいろの話を聞くごとにあなたのことを思って煩悶《はんもん》する。
ためそうとするだけで、
表面的な好意を寄せるような男に動揺させられるようなことがあってはいけませんよ。
私は一つの考えがあるのだから」
ともかわいく思いながら訓《いまし》めもした。
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