もう廷臣としての繁忙もここまでは押し寄せて来ず、
のどかな余裕のある生活ができるのであったから、
源氏を信頼して来た恋人たちにもそれぞれ安定を与えることができた。
しかも対《たい》の姫君だけは予期せぬ煩悶《はんもん》をする身になっていた。
大夫《たゆう》の監《げん》の恐ろしい懸想とはいっしょにならぬにもせよ、
だれも想像することのない苦しみが加えられているのであったから、
源氏に持つ反感は大きかった。
母君さえ死んでいなかったならと、
またこの悲しみを新たにすることになったのであった。
源氏も打ち明けてからはいっそう恋しさに苦しんでいるのであるが、
人目をはばかってまたこのことには触れない。
ただ堪えがたい心だけを慰めるためによく出かけて来たが、
玉鬘《たまかずら》のそばに女房などのあまりいない時にだけは、
はっと思わせられるようなことも源氏は言った。
あらわに退けて言うこともできないことであったから
玉鬘はただ気のつかぬふうをするだけであった。
人柄が明るい朗らかな玉鬘であったから、
自分自身ではまじめ一方な気なのであるが、
それでもこぼれるような愛嬌《あいきょう》が何にも出てくるのを、
兵部卿《ひょうぶきょう》の宮などはお知りになって、
夢中なほどに恋をしておいでになった。
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