昔は何も深く考えることができずに、
あの騒ぎのあった時も恥知らずに平気で父に対していたと思い出すだけでも
胸がふさがるように雲井の雁は思った。
大宮の所からは始終|逢《あ》いたいというふうにお手紙が来るのであるが、
大臣が気にかけていることを思うと、御訪問も容易にできないのである。
大臣は北の対に住ませてある令嬢をどうすればよいか、
よけいなことをして引き取ったあとで、
また人が譏《そし》るからといって家へ送り帰すのも軽率な気のすることであるが、
娘らしくさせておいては満足しているらしく
自分の心持ちが誤解されることになっていやである、
女御《にょご》の所へ来させることにして、
馬鹿《ばか》娘として人中に置くことにさせよう、
悪い容貌《ようぼう》だというがそう見苦しい顔でもないのであるからと思って、
大臣は女御に、
「あの娘をあなたの所へよこすことにしよう。
悪いことは年のいった女房などに遠慮なく矯正させて使ってください。
若い女房などが何を言っても
あなただけはいっしょになって笑うようなことをしないでお置きなさい。
軽佻《けいちょう》に見えることだから」
と笑いながら言った。
「だれがどう言いましても、そんなつまらない人ではきっとないと思います。
中将の兄様などの非常な期待に添わなかったというだけでしょう。
こちらへ来ましてからいろんな取り沙汰などをされて、
一つはそれでのぼせて粗相《そそう》なこともするのでございましょう」
と女御は貴女《きじょ》らしい品のある様子で言っていた。
この人は一つ一つ取り立てて美しいということのできない顔で、
そして品よく澄み切った美の備わった、
美しい梅の半ば開いた花を朝の光に見るような奥ゆかしさを見せて
微笑しているのを大臣は満足して見た。
だれよりもすぐれた娘であると意識したのである。
「しかしなんといっても中将の無経験がさせた失敗だ」
などとも父に言われている新令嬢は気の毒である。
大臣は女房を訪《たず》ねた帰りにその人の所へも行って見た。
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