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源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

源氏物語&古典をはじめ、日常の生活に雅とユーモアと笑顔を贈ります🎁

【平家物語第5巻 勧進帳②】生来不敵、筋金入りの荒法師であったから、絃が鳴り渡る中で、「法皇は大慈大悲の君であられる、これをお聞き入られぬはずはない」と勧進帳を引きひろげると、声高らかに読み始めた。

生来不敵、筋金入りの荒法師であったから、

誰も取りつがぬものときめてずかずか中庭に踏みこんだ。

もとより御前の礼儀作法は知らぬ。

よし知っていたにせよ頓着する男ではない。

絃が鳴り渡る中で、

「法皇は大慈大悲の君であられる、これしきのことをお聞き入られぬはずはない」

 と勧進帳を引きひろげると、

声高らかに読み始めた。

高く低く心をこめて弾かれる弦楽を圧するように、

文覚のしゃがれた太い声がひびき渡った。

「沙弥《しゃみ》文覚敬いて申す。

貴賤道俗の助成を蒙って、高雄山の霊地に一院を建立し、

現世来世安楽を願わんとする勧進の状。

それおもんみれば真如《しんにょ》は広大、衆生と仏と名を異にするとはいえ、

法性《ほっしょう》随妄《ずいもう》の雲厚く覆って、

十二因縁の峰にたなびいてからこのかた、人間本来の清浄心かすかにして、

未だ三徳《さんとく》四曼《しまん》の大虚《たいこ》あきらかならず。

悲しいかな仏日はやく没して、

生死流転《しょうじるてん》の衢《ちまた》冥々《みょうみょう》たり。

人ただ色に耽り酒に耽る。誰か狂象《きょうぞう》、

跳猿《ちょうえん》の迷を取り除くを得ん。

徒らに人を謗《ぼう》し法を謗す。これあに閻魔《えんま》獄卒の責めを免れんや。

ここに文覚、たまたま俗塵を打ち払って法衣を飾るといえども、

悪行なお心にあって日夜つのり、善言耳にさからって朝暮にすたる。

いたましきかな、ふたたび三悪道に帰りて四生《ししょう》の輪廻に苦しむとは。

この故に釈迦の経文千万巻、巻毎に仏種の因をあかして、縁に随い真を明す教法、

一つとして菩提の彼岸に至らずという事なし。

故に文覚、無常の関門に涙を落し、上下の僧俗を浄土に結縁して、

等妙覚王《とうみょうがくおう》の霊場を建てんとすなり。

それ高雄は山高うして鷲峯山《じゅぶせん》の梢に似、

谷しずかにして商山洞《しょうざんどう》の苔《こけ》敷くに似る、

岩間の清水流れること白布の如く、峰の猿木々の枝に遊ぶ。

人里遠くして汚れなく、地形すぐれて仏天を崇むに格好の地、誰を助成せざらんや。

ほのかに聞く、童子の砂で作りたる仏塔の功徳、たちまち成仏の因縁となる。

いわんや一紙半銭の寄進においてをや。

願わくは建立の大願成就して、皇居安泰の願満たされ、都鄙《とひ》遠近ともに、

僧俗ともに尭舜《ぎょうしゅん》の世の平和を謳歌し、長き太平の世を喜ばん。

殊にまた死者の霊魂死の前後、

身分の上下に関係なくすみやかに一仏真門の台《うてな》にいたり、

法報応三身の功徳集らんことを願う。よって勧進修行の趣、けだし以てかくの如し。

治承三年三月  日文覚

 と読み上げたのである。

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