2024-10-26から1日間の記事一覧
「お坊様もこれからの長旅、難儀なさいますが、 われわれがお傍にある以上ご心配はいりませんぜ。 まあ、こうした点でですな、依怙贔屓《えこひいき》と言っちゃ聞えが悪いが、 われわれもお坊様のことではあり、道中十分に気を配るつもりですがね。 そこで…
この頃、美福門院がおかくれになったので大赦があり、 牢につながれた文覚もこの恩恵に浴し、出獄した。 しかし文覚は、遠くの山にでも行って修行でもなされば、 という声には一向馬耳東風、平然たる面持で再び例の勧進帳を京の街に読み、 諸方に寄進すべき…
一歩すざった安藤武者は、 ここで血を流してはまずかろうと咄嗟《とっさ》に思案して太刀を取り直すや、 峰打ちを文覚の右腕にくれた。 打たれてひるんだ文覚に、太刀をがらりと捨てた安藤武者が組みついた。 両人ともに剛力のものである。 互にえいおうと力…
【平家物語133】 文覚被流②〈もんがくのながされ〉】氷の刃が光る、抜身を構えた文覚は近寄るものあらば刺さんという態度である。右の手に刀、左手に勧進帳振りかざす文覚は、あたかも両刀を操るように見える。
「無礼者め、とっとと出て失せい」 その姿をにらまえた文覚、 「高雄の神護寺へ、荘園一つご寄進頂かぬ限りは、退出いたさぬ」 という。かっとなった資行判官は、 つかつかと文覚に近寄ると衿首《えりくび》つかんで外へ突き出そうとした。 と、文覚は手にし…
このとき後白河法皇の御前では賑やかに楽が奏されていた。 妙音院の太政大臣は琵琶を弾じながら詩歌をみごとに朗詠していた。 按察使《あぜち》の大納言|資賢《すけかた》は和琴《わごん》を鳴らし、 その子|右馬頭資時《うまのかみすけとき》は風俗《ふう…
生来不敵、筋金入りの荒法師であったから、 誰も取りつがぬものときめてずかずか中庭に踏みこんだ。 もとより御前の礼儀作法は知らぬ。 よし知っていたにせよ頓着する男ではない。 絃が鳴り渡る中で、 「法皇は大慈大悲の君であられる、これしきのことをお聞…