「無礼者め、とっとと出て失せい」
その姿をにらまえた文覚、
「高雄の神護寺へ、荘園一つご寄進頂かぬ限りは、退出いたさぬ」
という。かっとなった資行判官は、
つかつかと文覚に近寄ると衿首《えりくび》つかんで外へ突き出そうとした。
と、文覚は手にした勧進帳を取り直すと烏帽子《えぼし》をいきなり叩き落し、
虚をつかれた資行の胸もとを拳で突き飛ばした。
資行はばったりのけぞって倒れた。
起き上ると恐怖にかられたのか広縁に逃げあがった。
そしておもむろに懐に手を入れた文覚は
、馬の尾で柄を巻いた刀を出すと鞘《さや》をはらった。
氷の刃がぎらっと光る、抜身を構えた文覚は近寄るものあらば刺さんという態度である。
これを取り押えようとする者との間に大立廻りが始まったが、
右の手に刀、左手に勧進帳振りかざす文覚は、あたかも両刀を操るように見える。
荒れ廻る文覚に御遊も琵琶もあったものではない。院は大混乱となった。
その時、武者所《むしゃどころ》にあった信濃国の住人安藤武者右宗は、
この騒ぎ何事ぞ、と太刀を抜いて走ってきた。
これを見た文覚は目を輝かすと勇んで飛びかかった。
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