大臣は、
「ちょっと御所へ参りまして、
夕方に迎えに来ようと思います」
と言って出て行った。
事実に潤色を加えて結婚をさせてもよいとは
大臣の心にも思われたのであるが、
やはり残念な気持ちが勝って、
ともかくも相当な官歴ができたころ、
娘への愛の深さ浅さをも見て、
許すにしても形式を整えた結婚をさせたい、
厳重に監督しても、
そこが男の家でもある所に置いては、
若いどうしは放縦なことをするに違いない。
宮もしいて制しようとは
あそばさないであろうからとこう思って、
女御《にょご》のつれづれに託して、
自家のほうへも官邸へも軽いふうを装って
伴い去ろうと大臣はするのである。
宮は雲井の雁へ手紙をお書きになった。
大臣は私を恨んでいるかしりませんが、
あなたは、
私がどんなにあなたを愛しているかを知っているでしょう。
こちらへ逢いに来てください。
宮のお言葉に従って、
きれいに着かざった姫君が出て来た。
年は十四なのである。
まだ大人にはなりきってはいないが、
子供らしくおとなしい美しさのある人である。
「始終あなたをそばに置いて見ることが、
私のなくてならぬ慰めだったのだけれど、
行ってしまっては寂しくなることでしょう。
私は年寄りだから、
あなたの生《お》い先が見られないだろうと、
命のなくなるのを心細がったものですがね。
私と別れてあなたの行く所はどこかと思うと
かわいそうでならない」
と言って宮はお泣きになるのであった。
雲井の雁は祖母の宮のお歎《なげ》きの原因に
自分の恋愛問題がなっているのであると思うと、
羞恥《しゅうち》の感に堪えられなくて、
顔も上げることができずに泣いてばかりいた。
🌷🎼あなたを愛した written by ゆうり
少納言のホームページ 源氏物語&古典 syounagon-web ぜひご覧ください🪷 https://syounagon-web-1.jimdosite.com
🪷聴く古典文学 少納言チャンネルは、聴く古典文学動画。チャンネル登録お願いします🪷