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源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

源氏物語&古典をはじめ、日常の生活に雅とユーモアと笑顔を贈ります🎁

平家物語72 第3巻 法印問答②〜The Tale of the Heike🪷

法皇にもこの清盛反乱の噂は耳に入っていた。

うそにせよ、まことにせよ、現在の情勢で、

清盛と対等に物がいえるのは、

法皇一人ぐらいのものだったのである。

法皇は、

側近の浄憲《じょうけん》法印を使者にして

法皇の言葉を清盛に伝えさせた。

「最近の内外の情勢は、未だ予断を許さず、

 人心の不安は、いよいよ拡大する傾向にある。

 朝廷では世間の成行きすべてに就て、

 いろいろと心を悩ましているが、

 何くれと頼りにもし、力と頼んでいるのは、

 その方一人である。

 それが近頃は、天下の平和を心掛けるどころか、

 朝廷に向って弓を引くという噂さえあるのは、

 一体何事であろうか?」

清盛は、しかし使いの浄憲法印を、

朝から夕方まで、待たせっ放しで逢おうともしないので、

しびれを切らした法印は、

使いの趣を

源大夫季貞《げんたいふすえさだ》に言い置いて、

暇乞いをして帰ろうとした。

すると、

「法印を呼べ」

という清盛の声がかかったのである。

清盛は法印を前に置いて

猛々《たけだけ》しい声でいうのであった。

「法印御坊、わしのいい分も聞いてくれ、

 重盛の身まかったことぐらい、

 わしの心に

 打撃を与えたものは未だかつてなかったくらいだ。

 そなたもこの清盛の心持を察してくれるであろう。

 保元、平治の乱と、

 うち続いた天下の乱れが漸く治ったのも、

 実は重盛の陰《かげ》の力が物をいったからだ。

 わしの働きなど問題にはならぬ。

 とにかく、朝廷の公事百般、

 もろもろの政治の事にこれほど誠を尽し、

 勤め励んだものがあろうか?

 親の欲目にしても、

 重盛ほどの人材がざらにいようとは思われぬ。

 昔から、賢臣の死には、

 君主が礼を尽して逝去を悲しみ嘆いたものじゃ。

 しかるに法皇が、

 四十九日も済まぬうちに八幡に行幸、

 御遊《ぎょゆう》あそばされたのは、

 ひとえに、

 この清盛、重盛親子を煙たく思われている証拠であろう。

 更にもう一つ、

 重盛亡き後も

 永久に子孫代々変らずというお約束で下された越前国を、

 重盛の死後直ぐお取上げになったのは、

 こちらに不都合があったというおつもりであろうか。

 更にもう一つ、

 中納言欠員の際、摂政|基実《もとざね》の子息、

 基通《もとみち》公を家柄といい、

 才能といい、申し分のない方と思い、

 この清盛が

 あえてご推薦申し上げたのにお取り上げにならず、

 どう見ても不適格と思われる関白の子息を

 中納言にされたのは、

 道理にかなったこととは思われぬぞ、

 それから最後に一つ」

そこで清盛は一段と声を張りあげて、

じろりと法印をにらみつけた。

「例の鹿ヶ谷の陰謀は、何と申し開きなされる。

 あれは単なる私事の謀叛《むほん》ではない、

 法皇が一枚加わっておられることは、

 もうとっくに調査済みじゃ。

 それほど迄に忌み嫌われ憎まれて、

 子々孫々まで朝廷に召し使われるのも覚束なく、

 余命いくばくもないこの清盛が

 今また片腕と頼んだ息子を失い、

 この浮世にも、ほとほと厭気がさしてきた。

 今迄はいろいろ遠慮もいたし、

 気もつかってきたけれど、

 これからは自分の勝手にしたいと思い立った次第じゃ」

時には、かっと腹立たしげに顔を紅潮させ、

時には又、ほろほろと涙を流して、

かき口説く清盛を見ていると、

法印は恐ろしさと同時に哀れさを覚えるのである。

 浄憲は、鹿ヶ谷の会合にも、

法皇のお供でしばしば出席していたこともあり、

今又目の前でそのことを言われた時は、

さすがに首筋がひやりとするほどの恐ろしさを感じ、

このまま、あの事件の片割れとして、

なわを打たれでもするのではないかとさえ思ったが、

もとより豪気な気性の法印は、

気を持ち直して清盛にいった。

「お言葉よくわかりました。

 しかし貴方様の功労の大なることは、

 法皇も常にお認めになっておられるところです。

 しかし、

 鹿ヶ谷の陰謀に法皇が荷担しておられるとは、

 これは全く、空々しい讒言《ざんげん》でしょう、

 小人の言葉をうのみにして

 法皇のお心にそむくことは、

 臣下の道に外れたことと思いまする。

 およそ、天空は、青々として果てしなく、

 測り難いもの、

 君の心もそのように

 我々下々には測り知れないこともござります。

 貴方もこのたびのお腹立ちは尤もなことながら、

 よくよく考えられた方がお身の為でございます。

 とにかく貴方様のお言葉は、

 残らず法皇にしかとご報告いたします」

おもねることなく、悪びれることなく、

天下の勢力者、清盛の面前で、

堂々と意見を開陳した法印の勇気は、

後々までも賞賛の的《まと》になった。

🪷🎼大河 written by 伊藤ケイスケ

 

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