言うともなくこう言うのを、源氏は恨んで、
逢《あ》ふまでの かたみに契る 中の緒《を》の
しらべはことに 変はらざらなん
と言ったが、
なおこの琴の調子が狂わない間に必ず逢おうとも言いなだめていた。
信頼はしていても目の前の別れがただただ女には悲しいのである。
もっともなことと言わねばならない。
もう出立の朝になって、
しかも迎えの人たちもおおぜい来ている騒ぎの中に、
時間と人目を盗んで源氏は女へ書き送った。
うち捨てて 立つも悲しき浦波の
名残《なごり》いかにと 思ひやるかな
返事、
年経つる 苫屋《とまや》も荒れて うき波の
帰る方にや 身をたぐへまし
これは実感そのまま書いただけの歌であるが、
手紙をながめている源氏はほろほろと涙をこぼしていた。
🪷🎼止まない雨を見ていた written by キュス🪷
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