ちょうどそこへ若君が来た。
少しの隙《すき》でもないかと
このごろはよく出て来るのである。
内大臣の車が止まっているのを見て、
心の鬼にきまり悪さを感じた若君は、
そっとはいって来て自身の居間へ隠れた。
内大臣の息子たちである左少将《さしょうしょう》、
少納言《しょうなごん》、
兵衛佐《ひょうえのすけ》、侍従《じじゅう》、
大夫《だいふ》などという人らも
このお邸《やしき》へ来るが、
御簾《みす》の中へはいることは許されていないのである。
左衛門督《さえもんのかみ》、
権中納言《ごんちゅうなごん》などという内大臣の兄弟は
ほかの母君から生まれた人であったが、
故人の太政大臣が
宮へ親子の礼を取らせていた関係から、
今も敬意を表しに来て、
その子供たちも出入りするのであるが、
だれも源氏の若君ほど美しい顔をしたのはなかった。
宮のお愛しになることも比類のない御孫であったが、
そのほかには雲井の雁だけが
お手もとで育てられてきて
深い御愛情の注がれている御孫であったのに、
突然こうして去ってしまうことになって、
お寂しくなることを宮は歎《なげ》いておいでになった。
🪷🎼一花 written by ゆうり
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