これまでもすでに同じ家には住まず
別居の形になっていたのであるから、
明石が上京したあとに
自分だけが残る必要も認めてはいないものの、
地方にいる間だけの仮の夫婦の中でも
月日が重なって馴染《なじみ》の深くなった人たちは
別れがたいものに違いないのであるから、
まして夫人にとっては
頑固な我意の強い良人《おっと》ではあったが、
明石に作った家で終わる命を予想して、
信頼して来た妻なのであるから
にわかに別れて京へ行ってしまうことは心細かった。
光明を見失った人になって
田舎の生活をしていた若い女房などは、
蘇生《そせい》のできたほどにうれしいのであるが、
美しい明石の浦の風景に接する日の
またないであろうことを思うことで
心のめいることもあった。
これは秋のことであったからことに
物事が身に沁《し》んで思われた。
🪷遥か written by 藍舟🪷
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