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源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

源氏物語&古典をはじめ、日常の生活に雅とユーモアと笑顔を贈ります🎁

平家物語67 第3巻 医師問答②〜The Tale of the Heike🪷

その頃、宋から、

名医といわれる医師がやってきて京都に滞在していた。

福原にいた清盛は、使者を遣わして、

この名医の診察をうけるようにとすすめさせた。

 重盛は、使いの越中守盛俊《えっちゅうのかみもりとし》を

病室に招き、蒲団《ふとん》の上に起きなおって、

「わざわざ、

 医療のためのお使い有難く思っておりますと、

 お伝えしてくれ。

 それから、もう一ついうことがある。

 それは醍醐天皇のことだ。醍醐天皇は、

 あれ程の賢主であったけれども、

 異国の人相見を都にお引き入れになったのは、

 大へんなお心得ちがいだったといわれている。

 まして、重盛ごとき凡人が、

 異国の医師を自分の屋敷の内に入れることは

 一門の恥ではなかろうか? 

 漢の高祖が

 淮南《わいなん》の黥布《げいふ》を討ったとき、

 流れ矢で傷を受けた后 呂太后《りょたいこう》が

 良医を迎えて診察させると、

 医師は五十斤の金を下されば癒してみせますといった。

 高祖はその時何といったか? 

 戦場で傷を受けるのは、命運のつきたしるしじゃ。

 命は即ち天にあり、いかな名医でも治療はできぬ、

 といって、

 金を惜しむようにうけとられては残念じゃ、

 といって金五十斤を医師に与えて、診療を断わった。

 この話は未だに私の耳に残り肝に銘じている。

 重盛も、天運の力で高位高官に列しておる。

 もし私の運命尽きずば、

 療治を加えずとも助かることは確実である。

 かの釈迦仏さえ、

 跋提河《ばつだいが》のあたりで入滅したのも、

 これすべて定められた命運が、

 医療ではどうにもならぬことを身をもって示されたのだ。

 もしどんな病でも癒るものならば、

 かの名医|耆婆《ぎば》がついていて何故、

 釈尊が入滅することがあったろう。

 又、もし宋国の医師に依て生命が長らえたとあっては、

 我が国医術の面目も丸つぶれになるし、

 効き目がなければ、面謁して意味はないであろう。

 更に、わが国の大臣の一人として、

 異国の客人に診療を乞うとは国の恥でもある。

 この重盛、

 死んでも国の恥を思う心は失わないつもりであると、

 父上にお伝えしてくれ」

盛俊は、清盛に事の次第を言上した。

すると清盛も重盛の志には感じ入ったらしく、

「これほどに国の恥を思う大臣は、

 未だ前例を知らぬのう。

 まして末世末代にあるべきはずはなし、

 この日本には不相応な立派な大臣じゃから、

 今度はきっと死なれるにちがいない」

といって急ぎ都にのぼった。

 重盛は、七月二十八日、出家した。

法名は浄蓮《じょうれん》。

やがて八月一日、ついに不帰の客となった。

享年四十三歳。

まだまだ働き盛りの年頃である。

「入道相国が無茶なことをしても、

 この人のおかげで、

 何とか無事におさまってきたのに、

 これから先きはどうなることやら」

京の人たちは、みんな、

ひそひそとつぶやき合ったという。

 都の上も下も、

一様に重盛の逝去を悲しんでいる中で、

ひとりほくそ笑んでいたのは、

前右大将宗盛の身内の人たちである。

「いよいよ、うちの殿様の天下じゃ」

と彼らは内心の喜びをかくせなかった。

🪷🎼Awaken The Dragon written by MFP【Marron Fields Production】

 

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