侍従は名残《なごり》を惜しむ間もなくて、
泣く泣く女王《にょおう》に、
「それでは、今日はあんなにおっしゃいますから、
お送りにだけついてまいります。
あちらがああおっしゃるのももっともですし、
あなた様が行きたく思召《おぼしめ》さないのも
御無理だとは思われませんし、
私は中に立ってつらくてなりませんから」
と言う。
この人までも女王を捨てて行こうとするのを、
恨めしくも悲しくも末摘花は思うのであるが、
引き止めようもなくてただ泣くばかりであった。
形見に与えたい衣服も皆悪くなっていて
長い間のこの人の好意に酬《むく》いる物がなくて、
末摘花は自身の抜け毛を集めて鬘《かずら》にした
九尺ぐらいの髪の美しいのを、
雅味のある箱に入れて、
昔のよい薫香《くんこう》一壺《つぼ》を
それにつけて侍従へ贈った。
🪷菊 written by こっけ🪷
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