そのころの例のとおりに
早暁に源氏は出かけて行くのであった。
狩衣《かりぎぬ》などを着て、簡単な旅装をしていた。
「月が出てきたようだ。
もう少し端のほうへ出て来て、
見送ってだけでもください。
あなたに話すことがたくさん積もったと
毎日毎日思わなければならないでしょうよ。
一日二日ほかにいても話がたまり過ぎる苦しい私なのだ」
と言って、
御簾《みす》を巻き上げて、
縁側に近く女王を誘うと、
泣き沈んでいた夫人はためらいながら膝行《いざ》って出た。
月の光のさすところに非常に美しく女王はすわっていた。
自分が旅中に死んでしまえばこの人は
どんなふうになるであろうと思うと、
源氏は残して行くのが気がかりになって悲しかったが、
そんなことを思い出せば、
いっそうこの人を悲しませることになると思って、
「生ける世の 別れを知らで 契りつつ
命を人に限りけるかな
はかないことだった」
とだけ言った。
悲痛な心の底は見せまいとしているのであった。
💠【源氏物語 第十二帖 須磨(すま)】
朧月夜との仲が発覚し、追いつめられた光源氏は
後見する東宮に累が及ばないよう、
自ら須磨への退去を決意する。
左大臣家を始めとする親しい人々や藤壺に暇乞いをし、
東宮や女君たちには別れの文を送り、
一人残してゆく紫の上には領地や財産をすべて託した。
須磨へ発つ直前、桐壺帝の御陵に参拝したところ、
生前の父帝の幻がはっきり目の前に現れ、
源氏は悲しみを新たにする。
須磨の侘び住まいで、
源氏は都の人々と便りを交わしたり
絵を描いたりしつつ、淋しい日々を送る。
つれづれの物語に明石の君の噂を聞き、
また都から頭中将がはるばる訪ねてきて、
一時の再会を喜び合った。
やがて三月上巳の日、
海辺で祓えを執り行った矢先に
恐ろしい嵐が須磨一帯を襲い、
源氏一行は皆恐怖におののいた。
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