座敷の御簾《みす》をいっぱいに張り出すようにして裾をおさえた中で、
五節《ごせち》という生意気な若い女房と令嬢は双六《すごろく》を打っていた。
「しょうさい、しょうさい」
と両手をすりすり賽《さい》を撒《ま》く時の呪文を早口に唱えているのに
悪感を覚えながらも大臣は従って来た人たちの人払いの声を手で制して、
なおも妻戸の細目に開いた隙《すき》から、
障子の向こうを大臣はのぞいていた。
五節も蓮葉《はすっぱ》らしく騒いでいた。
「御返報しますよ。御返報しますよ」
賽の筒を手でひねりながらすぐには撒こうとしない。
姫君の容貌は、ちょっと人好きのする愛嬌《あいきょう》のある顔で、
髪もきれいであるが、
額の狭いのと頓狂《とんきょう》な声とにそこなわれている女である。
美人ではないがこの娘の顔に、
鏡で知っている自身の顔と共通したもののあるのを見て、
大臣は運にのろわれている気がした。
「こちらで暮らすようになって、
あなたに何か気に入らないことがありますか。
つい忙しくて訪《たず》ねに来ることも十分できないが」
と大臣が言うと、例の調子で新令嬢は言う。
「こうしていられますことに何の不足があるものでございますか。
長い間お目にかかりたいと念がけておりましたお顔を、
始終拝見できませんことだけは成功したものとは思われませんが」
「そうだ、私もそばで手足の代わりに使う者もあまりないのだから、
あなたが来たらそんな用でもしてもらおうかと思っていたが、
やはりそうはいかないものだからね。
ただの女房たちというものは、多少の身分の高下はあっても、
皆いっしょに用事をしていては目だたずに済んで気安いものなのだが、
それでもだれの娘、
だれの子ということが知られているほどの身の上の者は、
親兄弟の名誉を傷つけるようなことも自然起こってきて
おもしろくないものだろうが、まして」
言いさして話をやめた父の自尊心などに
令嬢は頓着《とんじゃく》していなかった。
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