
権勢の強さの思われる父君を見送っていた令嬢は言う。
「ごりっぱなお父様だこと、あんな方の種なんだのに、
ずいぶん小さい家で育ったものだ私は」
五節《ごせち》は横から、
「でもあまりおいばりになりすぎますわ、
もっと御自分はよくなくても、
ほんとうに愛してくださるようなお父様に引き取られていらっしゃればよかった」
と言った。
真理がありそうである。
「まああんた、ぶちこわしを言うのね。失礼だわ。
私と自分とを同じように言うようなことはよしてくださいよ。
私はあなたなどとは違った者なのだから」
腹をたてて言う令嬢の顔つきに愛嬌《あいきょう》があって、
ふざけたふうな姿が可憐《かれん》でないこともなかった。
ただきわめて下層の家で育てられた人であったから、
ものの言いようを知らないのである。
何でもない言葉もゆるく落ち着いて言えば
聞き手はよいことのように聞くであろうし、
巧妙でない歌を話に入れて言う時も、
声《こわ》づかいをよくして、
初め終わりをよく聞けないほどにして言えば、
作の善悪を批判する余裕のないその場では
おもしろいことのようにも受け取られるのである。
強々《こわごわ》しく非音楽的な言いようをすれば
善《よ》いことも悪く思われる。
乳母《めのと》の懐《ふところ》育ちのままで、
何の教養も加えられてない新令嬢の真価は外観から誤られもするのである。
そう頭が悪いのでもなかった。
三十一字の初めと終わりの一貫してないような歌を
早く作って見せるくらいの才もあるのである。
「女御さんの所へ行けとお言いになったのだから、
私がしぶしぶにして気が進まないふうに見えては感情をお害しになるだろう。
私は今夜のうちに出かけることにする。
大臣がいらっしゃっても女御さんなどから冷淡にされては
この家で立って行きようがないじゃないか」
と令嬢は言っていた。自信のなさが気の毒である。
手紙を先に書いた。
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